虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

革命 その16



「パンであれば、この品質の物が無限に生みだせるようになりました。氷を複製すれば、好きなだけ用意できますし、少なくとも死ぬことは防げたと思いますよ」

「…………」

「いくつか、別の機会に食品の紹介をすることにしましょう。この場で求めたのは、あくまで神代魔道具そのもの。英雄様も奪ったその日に使えるとは考えていなかったでしょうし……美味しいですか?」

「そう、だな。この味と柔らかさであれば、不満もそうでないだろう」

 白パン、と昔は言ったんだっけ?
 どこまで食べ物に:DIY:が使えるのかを試している最中、パンも作っていたんだ。
 化学物質が生みだせたので、イースト菌もできるのかな……と試してみれば、あっさりと用意できたためパン作りは簡単だった。

「英雄様にとって革命とは、自由になるための行為ですよね? 完全な形ではないとはいえ、こうして神代魔道具の代わりとなる物も手に入りました」

 英雄の目的は、闇厄街に住まう者が自由となること。
 籠の中の鳥を解き放とうと、がむしゃらに働いている。
 その手段が今回は好戦的になり──暗躍街にある【暗殺王】の領域にやってきた。

「今回は食料を得ました。これで、彼らが餓えに苦しむことはなくなります。……では、次は何をしますか?」

「何をとは……」

「そちらの方は理解しているとお思いでしょうが、人の欲望に際限は無く、一度でも楽を得た者はそれを忘れられなくなります。そしてそれを再度得るため、闘争を生みます」

「…………」

 すぐに理解できる地頭はあるのだ。
 あえて考えていなかったのか、それともそれを教えてくれる者がいなかったのか……俺にできるのは、革命の終息を促すことだけ。

「今回の革命において、誰かが死ぬことはありませんでした。だがそれは、相手が白い人形のみで防衛を行ったから……暗殺者が一人でも戦闘に介入していれば、必ず被害が及んでいたでしょう」

『そんな簡単に、誰かに動いてもらう必要がなかっただけさ。英雄が動けば……こっちも何かしようとは思ったけどね』

「わ、私たちは……」

「思うことはあるでしょう。しかし、それでも事実を述べただけ。誰かの犠牲無くして、大衆の革命は成し得ないのですよ」

 もちろん、ゲームの世界らしく一騎当千でもすれば犠牲は無いかもしれない。
 誰も苦しむことのない、そんな世界を作り上げるための礎ができる。

「──とはいえ。救済の措置はあります。英雄様、今回はそちらの魔道具を持ってご帰還ください。私は……【暗殺王】さんに用がございますので」

 革命はすでに幕を閉じた。
 だから、これから始まるのは物語でいえば閑話や幕間となるのだろう。

『ふーん、どうするのかな?』

「ええ、少しお話をしましょう」

 死ななければいいけど……大丈夫だよな?


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