虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

革命 その14



「では、簡単に手本を見せましょう」

 鹵獲しておいた白い人形を、円の片方に落とす……力が足りないからな。
 術式が分かる者には分かるのだが、そちらは出力用の円だ。

「先に複製したいものを、このようにして円の上に載せておきます。これは物体の構造を調べるために必要なことですが、一度解析すれば登録はできますので、この工程は最初だけで充分ですよ」

「つまり、さまざまな食料が生成可能ということか」

「その通りです。しかし、複雑な構造であればあるほど、必要な対価は多くなりますよ。そう、あの黒い人形を作るのであれば相当なモノになるでしょう」

 ちなみに白い人形は、極端にコスパをよくしているため簡単に生みだせるのだ。
 これも神代魔道具を設計した製作者が努力したんだろうが、『SEBAS』も少し感心していたぐらいだし、本当に凄い軽量化が図られてるらしいぞ。

『うーん、たしかにアレは強いからね。すぐにバラバラにされたことには、驚いちゃったけど。それで、どれくらい必要なの?』

「白い人形を十体ほど、魔石の代わりに支払えば可能です。予め演算しましたので、間違いありませんよ」

『むっ。十体分で、作れるんだ』

「これには特別な技術が使われています。企業秘密、というヤツです」

 同種の存在を対価として使えば、本来のエネルギー以上に物を生みだせる。
 いわゆるボーナスといったところだ。
 魔石そのものでは起きないが、だいたいの物は同じでそういったボーナスが発生するんだよ。

 人形を片付けて、作業を説明する。
 ポケットの中から取り出すのは、先に挙げた最低品質の人造魔石。

「続けましょう。そして支払う対価、今回の場合はこちらの魔石を使います。それをもう一つの円の上に載せ、術式を起動させる──それで完成です」

 魔石が吸い込まれるように溶けて消え、そのエネルギーが人形を載せていた陣の方へ流れ込んでいく。
 読み込んだ構造式に従って、人形を完全な形で複製する。

「今回はあえて、そのままの形で複製しました。【暗殺王】さん、指示をしてください」

『そう? じゃあ──殺して』

 さらりと告げた命令に従い、白い人形は俺の体を刺し貫く。
 すぐに肉体が再構成され、俺の姿は殺される前とまったく同じ状態となる。

「君、いったい何を!?」

「落ち着いてください、英雄様。効率を求めた結果がこの状況です」

『私の権限よりも上の権限を手に入れていたら、殺すことはできなかった。つまり、本当にそのままの人形を複製できた──複製しても変わらないんだね』

 だからと言って、俺を殺すという選択はどうかと思うがな。
 実際英雄も、納得できないようで渋い顔をしているし。

 ──理屈じゃ納得できない、そんなこともあるのだから。


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