虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
闇厄街 その11
「しかし、貴方のような方が行き倒れになるものですか? 依頼を食料で受ければ、簡単に集められると思いますが……」
「お金持ちの方からは、僅かばかりのお礼を受け取っていますが……ここらの住民は、そういった物を持っていませんので」
なんだかブラックな先生みたいな気もするが、そこはいい。
ならばどうして、ここにいるのだろう?
「頼まれたからですよ、自分たちのやるべきことが終わるまで力を貸してほしいと」
「……英雄様に、ですか?」
「そういうことです。前金は頂きましたが、物価の違いがありましてね……少しサービスしすぎてしまいました」
「なるほど、そういうことでしたから……でしたらこちらをどうぞ」
彼自身が悪くないことは分かったし、それならば俺からもプレゼントをしよう。
ポケットからだと見た目がアレなので、今回はインベントリから取りだしておく。
「こ、これは……っ!」
「私が独自に開発した、携帯食料という物です。長期的な保存も可能ですが、何より味に拘りました。よければどうぞ、受け取ってください」
「おぉ……おおっ!」
歓喜しているように見える『薬毒』。
さっきあれだけ食べたのに、まだ食料を要しているのか。
試作券窃盗スキル対策に用意していた品々だが、人の役に立てて何よりだ。
英雄たちの前で配らなかったのは、それを渡した後のことを考えたからだ。
そうして一度でも上質な味を知った者たちが、今後どういった行動を起こすかが謎だからな……無暗に配れなかったんだよ。
「あ、貴方はどれだけ心が深い方なんでしょう……仕事中で無ければ、ぜひお礼をしたいところでした」
「いえいえ、お気になさらず。生者として、生に喘ぐ者を見逃せなかっただけですので。その食料で、少しでも生を感じていただけるのであれば幸いです」
「……本当に、貴方は救いの神ですね」
そこまで言われるとは、少しビックリだ。
いったい英雄たちは、どれだけ『薬毒』を安い金で雇ったのだろう。
……いや、そうじゃないのか。
安すぎるのであれば、断れば良い。
その価格でしかできないことを知って、それを甘んじて受け入れたんだろう。
「どうしてそのような状態になるまで、耐えてでも受け入れたので?」
「……簡単ですよ。ただそれをしたかった、他に理由なんてありません」
「立派な考え方です。世の中に理不尽が罷り通る中、貴方のような生き方をできる者が増えればどれだけよかったことやら」
食料と水分は渡したし、しばらくは生きていける──だが、それでは解決しない。
英雄たちの革命が終わるまで仕事をする契約であれば、その間は別の場所で働くことができないらしいし。
「さて、どうしたものやら……」
とりあえず、『SEBAS』に相談してみようか。
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