虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
闇厄街 その10
いつものことながら、光学迷彩の効果は素晴らしいと思う。
これを最初に発案した人間は、本当に偉人だな……と感じるよ。
「たしか、カメレオンとかタコの擬態を模しているのもあるんだっけ?」
周りに同化するもの、光や空間を歪曲させるもの……光学迷彩と纏めても、その中にはいくつもの種類分けがされている。
俺のはその複合に加え、魔力による偽装が施されるという、ハイブリット型だ。
「なのでバレない。『超越者』級の存在でないと気づくことすらできないだろうな」
ちなみにだが、殺気や科学的なコンタクトで敵を探す俺の探知方法だが、いちおうは逃れる方法はあるんだ。
そしてその可能性を持つ人物は、暗躍街のどこかに潜んでいる……そういったこともあり、俺は一度こちらの街に来た。
「えっと、次はどこに……ん?」
少しずつ、英雄たちが管理するエリアから離れて彷徨っていると、そこに一人の男が倒れていた。
職種が分かるような白衣を纏っているが、お世辞にも清潔とは言えないような汚れがあちこちに付着している。
「あの……大丈夫、ですか?」
「……を」
「?」
「み、水をください」
そして、彼のお腹が空腹を訴える音が辺りに響いた。
望みの品である水、加えてある程度の食べ物を渡してみる。
すると男は飛びあがり、掻きこむように口の中へ飯を入れていく。
「うぐっ!?」
「ああ、ほら。こちらの水をゆっくりと飲んでください。食料は減りませんし、余計に欲しいのであればあげますので」
「むぐぐっ」
ゴクゴクと水を流し込むと、再び飯を射の中へ収めていく。
この後、飯が喉に詰まるということは無くなったが、一定の速度で食べ物を食べるため最初に与えた分の食料はすぐに底をついた。
「──では、こちらが追加分です」
「ああ、感謝するよ」
しっかりと噛んでいるか分からないが、本当に食事のスピードが速い。
創作物で大食いキャラが食べる速度って、実際に可能なんだと驚いてます。
やがて、満足したのか食事を止める男。
それでもお腹がポッコリとしていない……ゲーム補正なのか、そういう体質なのか。
「いやー君、本当に感謝するよ。最近はロクに食事をすることが減っていてね、お蔭でついに行き倒れになってしまっていたんだよ」
「ええ、まあお気になさらず。私は自身の矜持に則って行動しただけですから」
そう言うと、彼は少し瞳を暗く輝かせ──
「ふむ、それが『生者』の矜持ですか。死にそうな人間を救うことが、かい?」
「いえいえ、そうではありませんよ。ただ、一度話をしたかった方が、そのまま倒れられていても困りますから──『薬毒』さん」
すでに【情報王】の資料によって、目の前の人物のことは把握している。
彼こそが、あらゆる薬と毒に精通した──『超越者』一人なのだった。
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