虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

闇厄街 その02



 暗躍街にも表の顔と裏の顔があった。
 表にはカジノや情報ギルド、統率されたスラムなどの明るい暗さが存在する。
 裏には……まあ、昏さが多めだ。

「私たちは、貧困に苦しむ者や死の危機に追われた者たちを救う活動をしている。闇に近い街の中にも、このように見るに堪えないと思われる場所があるのだ」

 歩く場所はとても重たい空気が漂い、大人も子供も関係なく諦念の目をしている。
 英雄たちはそこで座り込む人々に、話しかけては食料を分け与えていた。

「……君には、この者たちの苦しみが分かるのか? 身を窶し、初めは足掻く。だがそれでも何を起こせぬまま、未来に絶望したまま死を願う。私たちはそんな彼らに希望を見せたいのだ」

「……それで、彼らは救われるのですか?」

「どういうことだ」

 作業を一度中断すると、俺に剣呑な目を向けてくる英雄。
 やれやれ、こういった話は地球でも割と揉めたんだっけ?

「死こそ幸いとなる、そんな者もいます。呪いに侵され、救いようの無い未来が待ち受ける者に……貴方は苦しみ続けて死ねと告げますか? もちろん、これは極論ですがね」

「それを! それを救うために、私たちはいるのだ。今まで治せなかった病も、技術が進歩するにつれて治せるようになった。この場所であれば、この街の中枢に辿り着くことができれば! ……そんな苦しみからも、解放できるはずだ!」

「私が冠するのは『生者』。貴方がたの言いたいことも、分かります。死を望む者も、小さな希望を持っている……貴方がたの言う救いが、もっと小さなものであれば私も協力できたでしょう」

 ゴソゴソとポケットを漁り、取りだした一本のポーションを見せる。

「──死者を蘇生するポーション。条件はあるそうですが、たしかな効果があります」

「っ……! どうしてそのような物を持っているのだ!」

「いえいえ、お気になさらず。そして、こちらが──」

 あっ、と小さく呟く英雄を無視して、また別のポーションを取りだす。

「あらゆる呪いや病気、状態異常を解除するポーションです。こちらは条件もない、即効性の物ですよ」

「……それを私たちに教えるということに、どんな意味があるのだ」

「苦しみからの解放、いい言葉ですね。とても素晴らしく……残酷な言葉です」

 ポーションを辺りの者に振りかけ、その効果を知らしめる。
 体に黒ずみがあった者や、真っ青を通り越して白い顔をしていた者は健康な状態に戻っていく……だが、それだけだ。

「治ったところで、彼らがこれからの未来に何を望むのですか? 私は『生者』、永劫の死と生を歩む『超越者』。英雄様、貴方に問います──真の幸福とはなんですか?」


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