虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

情報ギルド その02



「あれが、英雄だったのか……」

「何か言った?」

「いえ、少しお訊きした情報を反芻しているだけですよ。……それぞれ有名な方々が、エリアごとに支配しているのでは?」

 少年から教えてもらった情報の一つは、とてもナウなものである。
 ──英雄が、【情報王】のエリアで情報収集や通常活動をしているといった情報だ。

 その者は正体不明、誰にも素顔を知られることなく活動している。
 槍を振るい、苦しむ者たちを救い続け、領域を持たない勢力の中でもっともメンバーの多い軍勢。

(認識偽装、槍のような武器……物凄く見覚えがあるというかなんというか)

 先ほど会ったばかりの、俺を『超越者』だと見抜いたポンコツさん。
 布で包まれた槍のような武器を背中に背負い、幾人もの男たちを従えるその姿……まさに英雄そのもの、だったのだろうか。

「けど、英雄も何をしたいか分からないんだよ。……ここだけの話、何か悪い噂があった人たちを襲っている。そこで集めた物を売ったお金で、俺たちみたいな貧しい奴に食料を恵んでくれるんだ」

「好い人ではないですか」

「ただ、何か条件を要求してくるみたいなんだ。会った人しか知らないけど、誰も教えてくれないし……怪しくないか?」

 まあ、英雄は軍を率いる者だ。
 自身の能力を強くするために、その条件とやらが関わっているのかもしれないな。

「そうですね……無償の善行というものは、なかなか存在しませんし。君はもし、英雄に会ったら……どうしますか?」

「うーん。金が貰えて、満腹になるまで飯が食えるならそれでもいいかな? 俺には兄弟はいないし、誰かのために稼いでるわけでもないからなー」

「大変そうですね……」

 他人事である。
 俺には兄弟がいるが、日本という裕福な環境で育ったのでそれを気にする必要はない。
 まあ、プレゼントのために少し小遣い稼ぎぐらいならあるけど……それはいいか。

「そうでもないぜ。これでも盗みは一度もしたことないし、そろそろ買いたかった物が買えるだけのお金が溜まるんだ!」

「おめでとうございます……これは、あとで銅貨三枚をしっかり払わないといけません。前払いで渡しておきましょうか?」

「……いいのか?」

「ええ、構いませんよ」

 ──金ならいくらでもあるし。
 すぐにメニューを操作して、銅貨三枚分の金額を下ろす。

「おじさん、好い奴なんだな」

「そう思っていただけて何よりです。できるなら、情報ギルドまでの案内はしっかりしてもらいたいですがね」

「ああ、分かってるさ! おじさん、俺は約束は守るぜ!」

 そう言ってもらえて何よりだ。
 少年から聞きたい情報は聞き終わっているわけだし……そろそろ目的地に行こうか。


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