虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
カジノ その21
さて、だいぶ内面では緊張しているな。
そういった情報は逐一『SEBAS』が教えてくれるので、俺ものほほんとカードを引くだけで構わない。
《旦那様。次はババを右側に、それを5cm程上げてください》
指示されるがままにカードを動かすと、そこへ『賭博』の手が伸びJOKERが俺の元から去っていく。
清々しい笑顔を浮かべているが、血流や表情筋で動揺していることが分かるらしい。
「これで……何度目でしたっけ?」
「二十回目よ。なかなかやるわね」
「ふふっ、『賭博』さんに言われますと自信がついてきますよ。それでは、次は私の番ですね……」
《旦那様、左です》
再度飛んでくる指示に従い、ゆっくりのんびり手を伸ばす。
そして引いたカードは──JOKER。
勝敗は二十一回目へ引き伸ばされる。
「……今日はついてないわね」
「ええ、本当についていません。何か仕掛けでもあるのでしょうか?」
「ゲームは公正に行われるべきものよ。そして、私はそれを体現する『賭博』。そんなことはしないわ」
……バリバリでしているらしいけどな。
本来であれば一ターンで終わったこのゲームを、『SEBAS』が偽装して乗り切っているがそれも一苦労だ。
透視やカード偽装の力もあるらしいが、この三枚だけしか使わないゲームではほぼ意味がない。
「公正、ですか……なら安心ですね。それではもう少し、やってみましょうか」
「やる気になってくれたなら、何よりね。なら私もそろそろ、終わらせるために動くことにしましょう」
たった二枚しかないババ抜きなんて、本当はすぐに終わるはずのゲームだ。
だがそれが終わらないのは、ある意味俺が企んでいるからだな。
自身は決してババを引かず、相手にもババしか引かせない。
どちらも不正に不正を重ね、騙し謀り勝つためにあらゆる手を使う。
「さあ、引いてください」
促され、緊張しながらも『賭博』は一枚のカードを引いた。
しかしそれはJOKERのカードで、まだゲームは続いていく。
「──今は何度目でしょうか?」
「……五十回よ」
さすがに苛立ちを『賭博』の権能による補助でも抑えきれなくなっているな。
分かっているはずの当たりは引けず、抜いたカードは必ずJOKER。
相手の思考は読めても何も分からず、ほかの情報は詳細不明。
「なかなか飽きませんね、このゲーム。はてさて、何度目で当たるのでしょうね?」
「……そうね」
えっと、次は左か……いつになったら根を上げてくれるかな?
再びババを引きながら、そう思った。
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