虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
カジノ その20
自分が……この『賭博』が出し抜かれる?
ありえない、ありえてはならない!
「もう少し時間がかかりそうですね。三枚のカードでも、ここまで楽しめるのですか」
「そうね。ここまで私を二枚の札だけで弄ぶなんて……ひどい人だわ」
「……なんだか、悪意のある言葉の使い方ですね。えっと……こちらを」
動揺する『賭博』のカードを一枚抜き、自身の手札に加える。
……そして、何も変化が起きない。
ツクルが引いたカードは──ババである。
「また、外れですか……やれやれ、『賭博』さんを出し抜くことは難しいですね」
「…………」
ニコリと笑みを浮かべる『賭博』。
だが、その裏では激しく憤っている。
カジノにおいて最強無敵の権能を有しているはずの自分に、ここまで長い試合ができるはずがなかった。
透視したはずのカードは間違っており、引いても外れ引かずとも外れ。
心理を読み取ろうと単純なツクルの思考しか理解できず、分かっているはずのカードもババに入れ替わっている。
「ねえ、アナタは二人三脚でもしているのかしら?」
「……急にどうされました?」
「思い当たることがないなら、気にしなくてもいいわ」
……反応が感じられない。
カマをかけたつもりであったが、ツクルにそれらしい挙動は見つけられなかった。
「まだまだかかりますか……」
「そうね」
そう言って引き抜いたカードは、再びババであった。
苛立ちを完璧に隠したまま、思考を巡らせ勝利を求める。
「いったい、どのようにして手札を操っているのか……教えてくれません?」
「アナタが教えてくれたなら、私も教えてあげましょう」
「私にはそういったことは何一つないのですが……そうですね、無心でやっていると邪心が読まれないと言いますね」
ツクルは『SEBAS』によるナビゲートの元、このゲームに臨んでいる。
ある意味自身の意思を持たずにやっているので、あながち間違いではなかった。
「では、そろそろお願いします……手が少しずつ止まってきましたよ」
「……あら、少し考え事をしていてね」
そしてカードを抜く『賭博』。
ツクルの表情を見てどちらを抜くか悩むのだが、無心のツクルからは権能で読み取った思考以外何も分からない。
「……ちなみにですが、いつまでもこれが続いた場合はどうなりますか?」
「そうね……一枚正しいカードを引くだけなのだし、厭きた方が降参すれば負けということで充分でしょう」
「なるほど……なら、続けましょう」
ツクルは笑みを浮かべ、ゆっくりと片方のカードを引く──それはJOKERだった。
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