虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カジノ その19



 そして、ゲームが始まる。
 互いにシャッフルを行い、その後俺がカードを配ることになった。

 先にJOKERを持ってしまったのは……『賭博』。
 もちろん、『SEBAS』の指示通りにトランプを切ることで引き起こしたのだ。

「二人だと、どちらがババを持ったかがすぐに分かってしまいますね」

「そうね……どれだけ顔を取り繕っても、引いてもらったらすぐに分かるわね」

 ババJOKERをすぐにくれてやる、と言われているみたいだ。
 視線誘導やらミスディレクションを巧みに使えば、俺みたいなバンビなど騙される。
 ……無論、最終的に騙されるつもりはさらさらないわけだが。

「おや、運がいいですね『賭博』さん。これならすぐに終わりそうですよ」

「……ええ。本当ね」

 揃ったカードを捨てたわけだが、残った手札の枚数が俺1枚で『賭博』が2枚……本当にすぐ終わりそうだな。
 これはババ対策で用意した状況で、一枚引けば二分の一で勝てるように仕組んだ。

「では始めましょうか……『賭博』さんから引きますか?」

「いえ、アナタから始めてちょうだい」

「そうですか……なら、そうしましょう」

 片手で持つ二枚のカード、俺はその片方へ向けてゆっくりと手を伸ばした。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 負けるはずがない、笑みの裏でそう嗤う。
 すでに四巡目まで進んでいるが、互いに外れを引いているため決着がつかない。

 ──そろそろ終わらせてあげるのが、優しさかしら?

 これまではあえてババを抜き、ツクルに勝つ希望を与えていた『賭博』。
 自分を出し抜きこの場を設けたことを称賛し、チャンスを用意したのだ。

 だが、それを終わらせる時がきた。
 思考は冷たく状況を把握し、ツクルの持つ二枚の手札へ意識を向ける。

 ──そもそも、私が負けるゲームはこのカジノに存在しない。

 それこそが『賭博』の権能……あらゆる賭け事に対する補助能力を持っていた。
 意識の加速や表情の操作などはもちろん、透視や相手の思考能力を低下させることも可能としている。

 ツクルもまたその権能の影響下におり──手札は晒され、それを疑うこともできない。
 賭けをすれば、必ず勝利する……それこそが賭けの『超越者』である『賭博』が持つ権能なのだ。

 ──こっちね。

 ツクルが握り締め、少し上に見せつけるようにしているカード。
 それこそが自分の求めるカードだと、ずっと透視を行う瞳で知っていた。

「悪いけど、そろそろ勝たせてもらうわね」

 そう告げて、ゆっくりと手を伸ばす。
 ツクルはそれに抗うこともなく、『賭博』はスッとそのカードを引いた。

「ふふっ、これで私の勝ち……」

 だが、予想外の出来事が起きた。
 絶対的な自信と共に引いたカード……それが先ほどまで引いていたカード──ババだったからだ。


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