虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カジノ その16



 時間が経ち、キマイラの足が退いた。
 その間も死亡判定を受けていないのは、はたしてコロシアムの仕組みが原因か……それとも、別の要因があるのか。

「まあ、とにかく反撃をするか」

 モルメスを使うと、存在がバレる。
 魂に直接ダメージを与えられる、超激レアアイテム(量産型)……。
 一つでも奪われれば、ポーション以上に揉め事の原因となってしまう。

「なのでこれ、使ってみようか」

 取りだしたのは一本の剣。
 何か特徴があるわけでもない、武骨で素朴な鉄の剣だ。
 当然だが、このタイミングでそんな粗雑品で挑むほど愚かじゃないぞ?

「たしか……『残殺の死剣』だったか? これはこれで使用に悩むが……まあ、これでもどうにかなるか」

 すると突然、キマイラの様子が変化した。
 何かに怯えるように震えだし、俺に強烈な殺気を送ってくる。

 まるで俺の持つ剣は怖いけど、俺自体は怖くないから殺して対処しようと考えていそうな殺意だな……うん、ほぼ合ってる。

「チートアイテムに溺れる奴は、そのチートが奪われた時点で仕舞いだからなー。さて、そうなったら観客も興奮するか……」

 唸り声を上げるキマイラ。
 殺気を放てるため、それだけで死んでいる俺はなんとも虚しくなってくる。

 キマイラよ、お前が必死に殺気を放たずとも俺は死んでいるぞ。

「まあ、さっさと終わらせるか」

 剣を構え、キマイラに向けて駆け出す。
 いくつかプレイヤーの動きを参考にした武術データもあるが、今回は俺個人が可能としている戦法──ただ走るを選んだ。

『GUOOOOOOOOOO!』

 舐めてんじゃねーぞ! と言わんばかりに咆哮を上げて襲いかかってくる。
 鋭い爪が勢いよく振るわれ、俺はあっさりとそれをくらう。

 だがそれと同時に、俺の構えていた剣が少しばかり獣毛に命中する。

『GUO──』

 一瞬、不思議そうな表情を浮かべる……だが、それは苦悶の表情へ変化した。

『GUOOOOOOOOOO!!』

 その声はこれまでの高々としたものとは異なり、弱者が足掻くときのように思えた。

「この剣は一度限りで使える、消耗品。今回のためだけに用意した大逆転のアイテムだ。どうだ、苦しいだろ?」

 もちろん、『死天』の能力で生みだしたアイテムを劣化させた物です。
 本来であれば、斬った対象を一瞬で殺すような……いわゆる、必殺の剣だった。

「延々と苦しめ、お前が喰らってきた者たちの痛みを味わえ。そしてその先で、これまでの所業を後悔しろ」

 後ろを向き、ゆっくりと舞台から去っていく……そして、アナウンスが俺の勝利を告げるのだった。


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