虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カジノ その12



 さすがに裏VIPエリアのゲームには、隙など存在していなかった。

 ゲームを行う場所はどこでもいい。
 ディーラーにやりたいゲームを言うと、その場にゲーム台が展開されるという便利なシステムで成り立っている。

 全員が超が付くほど一流で、現実に居れば百戦錬磨の猛者として、どこでも雇われるような凄腕だ。

 そんな奴らが裏VIP会員の相手を行い、ゲームをコントロールしていた。
 根こそぎ奪い取る……なんてことはせず、生かさず殺さずで勝負を行わせている。



 俺のカードの合計は20。
 17以上でないとスタンドできないディーラーではあるが、ここで止めても勝つ可能性の方が高い。

「──ダブルで」

 だがそこで、俺は畳みかけるようにカードの注文を行う。
 受け取ったカードは──ハートのA。

「……ぶ、ブラックジャック。おめでとうございます」

 合計は21。
 ディーラーが開いたカードの合計は20であったので、あのままではドローになっていただろう。

運が・・、いいみたいですね……では、ここで降ります」

「良いゲームでしたよ」

「ええ、こちらこそ」

 相手も一流である。
 下手に繋ぎとめるようなことはせず、表面上はニコリと笑顔を浮かべて、負かした相手の見送りまでしてくれた。

「これ以上は、もう駄目だったな?」

《はい。断定できます》

「根拠は、なんて聞かない方が良さそうだ」

 間違いなくそれは、超越した演算能力が見つけだした解なのだろう。
 特段数学に詳しくも無い俺が説明を聞いたところで、『SEBAS』が無理をしてその説明を優しくするところから始めなければならないのが目に見えている。

「──だが実際、これ以上は可能なのか?」

「通常の方法では、もう対策を行われているので難しいかと。少しずつですが、相手もテクニックを織り交ぜていましたので」

「……全然気づかなかったな」

《俯瞰していたから気づけたことです。ミスディレクションも巧みでしたので、目の前で行われれば注意していてもその場で気づくのは難しかったでしょう》

「俺も修業しよっかなー」

 家族でカードゲームをやったとき、尊敬の視線を浴びること間違いなしだ。
 混ぜ方一つ取っても、ディーラーたちは多様な方法を有していた。
 ……まあ、それが高等なテクニックの一つだったわけだが。

「もう少しで、目標まで届く。だからもう少しだけ、頼んだぞ『SEBAS』」

《畏まりました。少々危険ではありますが、旦那様の指示を遂行いたしましょう》

 俺には掛けられる担保が無いからな。
 負けたらすべてを失う……まあ、一度きりのチャンスなんだよ。


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