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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カジノ その07


 カジノのゲームに関する詳細な説明がない理由は、俺自体がよく把握していないから。
 なんでも『SEBAS』の言う通りに動くだけで、チップがどっさり手に入るのに我が必要なんだろうか?

 まあ、こういう考え方がのちの生き方に堕落を齎すんだが……どうせ退廃するためのエリアなんだし、ここでぐらい「OK『SEBAS』」、からの「カジノで勝たせて」という必勝パターンをやらせてほしい。

「ただまあ、あっちからしてみれば大迷惑だよな。ただ根こそぎ奪うだけじゃなくて、カモにも思えるアンバランスな稼ぎ方をしているんだから」

《先ほどの接触で、『賭博』からの干渉が起きたことは間違いありません。念には念を入れて調整する必要がございます》

「任せたよ、そこら辺は。俺には……個人対個人の駆け引きは向いてないから」

 会社のため、と責任を背負って行う取引であれば何度も経験した。
 だが、そうした重みがないと……なんだか込み上げてくるものがないんだよ。

 パチンコや競馬、それらをなぜかルリに勧められたことがある。
 ……妻が夫に賭け事を勧めるってのもアレだが、とにかくやってみたことがあるんだ。

 けど、全然面白くなかった。
 何が面白いかは分かるが、それよりもゲームをしている方が楽しいと思ったんだ。

「結局のところ、やれと言われてやるからこそエンジンが動くんだよな。だから、好きにしていいと言われてもやる気にならない。会社のために働きたいってわけじゃないけど、個人で契約を結びに行って何になるんだ? そういうことだよな……」

 駆け引きなんて、常日頃からやることじゃないってことだ。
 誰かのため、仕方なくでも意味を見出せるからこそネクタイを締めて働ける。

 まあ、会社のために働くのも妻や子供たちのためであって、結論を言うならすべて家族のためでしかないんだけどな。



 ガッポリ稼いだチップが山積みとなり、俺は条件を満たすことになった。
 今この額を換金すれば、手数料を抜かれてもそれなりの額が手元に残る……いや、金はあんまり必要ないけどさ。

「──どうですか、『賭博』さん?」

「ええ、見込んだ通りよ。たった一日でこの域まで達するなんて……それも権能が関わっているのかしら?」

「いえいえ、運がよかっただけですよ。単純な運だけでは乗り越えられないゲームもありましたが、そこは……腕の見せ所でしたよ」

「ふふっ。何はともあれ、アナタは正式に資格を得た──招待するわ、裏VIPだけが入れる最後のゲーム会場に」

 ここだけは、直接案内されないと怪しまれるだろうな。
 ゆっくりと、優雅に歩き出した『賭博』の後ろへついていくのだった。


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