虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
アジト その03
「どうだ、ここが俺のアジトだ!」
こちらを向いて自慢する『拳王』の背後では、目まぐるしく働く人々が見て取れた。
そして、『拳王』の声に気づきこちらを見ると……一人の男が近づいてくる。
「ボス、どこに行っていたのですか! アンタが居ないから、てっきりまたふらりと人を殴りに行ったのかと……」
「さすが俺の右腕、行動を把握しているな」
「……今回の被害者はアンタか。それにしては、やけに小奇麗なままだな」
「ソイツが新しくこの街に来た『超越者』、俺が殴っても死なねぇ『生者』だ」
その言葉を引き金に、ざわついていた周りの声が一気に失せる。
沈黙は俺が『超越者』だからか、それとも『拳王』に殺されなかったからなのか……両方の気がするな。
黙っているのもアレな気がするので、男に挨拶をしておくか。
「申し遅れました。私、『生者』と申す者です。『超越者』と言ってもまだ末端。しぶとさ以外に特徴などございませんので、気楽に接していただいて構いませんよ」
「あ、ああ……。俺はヴェキン、【先兵】という職業に就いている」
「……切り込み隊長ですか?」
「! よく知っているな。俺やアイツらみたいな馬鹿に補正が付く、便利な職業だ」
上位者の命令を受けて行動をする際、かなりの補正が貰えるらしい(タクマ談)。
ただその職業、攻撃系のパロメーターに補正が極振りしているので防御性は皆無。
ある意味、神風アタックだな。
「こうは言っているが、俺たちのグループの中ではかなりの知恵者なんだぞ。お前の言う通り、隊長っぽいこともやっているし」
「お前に言われたことをやるだけの仕事だ。馬鹿な俺でもできることを、周りに伝えているだけだ」
「『あそこへ行け』、『アイツに会え』……そんな俺のアホな指示で動けるのはお前だけだよ」
あっ、やっぱりそんな感じなのか。
ただ、そういったシンプルな指示の方が行動に自由性が出て、自分の采配で仕事を勧められるという者もいるからな。
ヴィキンはその類いのようで、『拳王』からは確固たる信頼の色が見て取れた。
「──さて、そんな挨拶は後にしよう。ヴィキン、『生者』を『倉庫』に案内してやってくれねぇか? どうせ仕事が溜まってるとか言うんだし」
「仕事にはすぐ行ってほしい。彼の案内は了解した。すぐに始めよう」
「……ってわけだ。悪いが『生者』、報酬の品に関しちゃソイツに聞いてくれ。俺はちっと仕事をこなしてくるわ」
「お気になさらず。成すべきことを成すことも、時には大切ですので」
何か言いたげだったが……たぶん、内心では仕事をしたくなかったんだろうな。
ヴィキンの案内の元、俺は再び歩を進めるのだった。
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