虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
暗躍街 その07
「では、挨拶も済みましたし……私はこれで失礼しま──ぶっ」
「おいおい、どうしたんだよ『生者』。もう少しいっしょに居ようじゃねぇか」
誰が猛獣の巣に居てゆっくりできるか!
本音を叫びたいところだが、ここは穏便にやり過ごすしかない。
「い、いえ、『拳王』さんの気紛れによって私も弱っていますので、こうした場に長居するのも難しくて……」
「あー、悪かったな。だが、それは報酬でお相子だろ?」
「それは能力を使わせた分です。……そちらの方たちの観戦料ですけど、そちらは別途で請求した方がいいですかね?」
気配がずっと俺の殺されるシーンを見ていたことは、『拳王』も知っている。
いつまでも観察されるのは、なんだかうんざりするので回避したい。
「それもそうだな。おい、お前らもなんか払えよ。バレなきゃセーフなんだから、バレた分は払っていけよ」
「チッ、これでいいか?」
心底嫌そうな声と共に、【情報王】は俺に一枚の紙を飛ばしてくる。
その速度もまたヤバかったのだが、ここに来てからかなりお世話になっている吸着性の結界を指の周りに張り、受け止めたように見せておく。
「情報ギルドで訊ける情報量を最大値まで上げるカードだ。ただし、有料だからな」
「まさか、こんなに素晴らしい物を頂けるとは……感謝しますよ」
「ふんっ。礼なら態度で示すのだな」
「そのつもりですよ。後ほど、皆様の元へ向かう予定でしたし」
これは本当だ。
一度に大人数が来るのが危険なだけで、個人個人へ対処するなら問題ない。
この面倒そうな【情報王】も、万全な状態の『SEBAS』のバックアップを受ければあしらいも簡単である。
「私からはこれね──裏VIPカード。この街のカジノは全部入れるし、好きなだけチップが借りれるわよ」
「これは……使い勝手に困りますね」
「ふふっ、安心して。安全な方法でお金は返せるわよ」
「そうですか、それは何よりです」
透明なカードを受け取り、仕舞っておく。
カジノか……オンゲーだと何度も遊んできたが、こちらだとどんな仕様で運営されているんだろうか。
かなり悪辣な設定がされているだろうし、行くときは気をつけておこう。
『私からは……そうだな、後で面白い物を見せるということでいいかな?』
「秘密、ですか。それは面白そうです」
『そう言ってもらえると、見せる甲斐がありそうだよ』
この場で渡せない物、というのがかなりのヒントだろう。
予想は何パターンかつくのだが、確実にコレというものは分からない。
「では、私は『拳王』さんから報酬を受け取りますので……行きますよ、『拳王』さん。皆様の元へはその後に」
そういって、どうにかこの危機を乗り切ったのだった。
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