虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

暗躍街 その05



 そりゃあ、そうなるとも思っていたさ。
 いつまでも延々と、嗤い声を上げて拳をふるい続ける『拳王』。
 そこに警戒心など存在せず、無邪気に今を楽しむ青年でしかない。

 ……だからこそ、それは隙となる。
 この広い街には強者が何人もいる。
 いつまでも油断した『拳王』がいれば、偵察にでも来るだろう。

「チッ、邪魔しやがって。……我慢してたがうざいんだよ!」

 初めは純粋に楽しんでいた。
 だが、ソレに気づいた『拳王』の表情は少しずつ苛立ちを感じているように見えた。

 それは正しかったようで、ついに怒りが顕在化した。
 先ほどまで俺に放っていた拳を、まったく異なる場所へ向けて穿つ。

「張らせんな! 自分で来いよビビり共!」

「……急にどうされたので?」

「『生者』も分かってんだろ? アイツらにはそれぞれ、手駒がいる。ソイツらを使って俺たちを見に来てんだよ。だから俺は言ってやったんだ──さっさと集まれってな」

 あー、ちなみにさっきの一撃。
 いちおう言葉を伝えさせるために殺してはしていなかったが、拳が生みだした暴風に吹き飛ばされていたよ。

 メッセージが伝わるまでに、どれだけ時間がかかるんだろうな。

「それじゃあ『生者』、アイツら自身が来るまで遊ぼうじゃねぇか!」

「……さすがに疲れてきたんですけど。すみませんが、これ以上は──」

 リスクなどいっさいないが、こう言っておくことで少しは仕組みを偽装できるだろう。
 だが、まだ『拳王』は俺を殺りたいないようで……。

「なぁ、いいだろう? 欲しいもんがあんなら、後でくれてやるからさ!」

「……物、ですか」

「アイツらと違ってそこまで俗なもんな持ってねぇけど、それでも生きるために金は必要だからな。他にも巻き上げた面白そうなもんもあるし……なぁ、頼むよ」

 暗躍街に巻き上げたアイテムなら、それはそれで価値がある物だろう。
 あとでタクマの元へ向かえば、その価値もはっきりと分かる。

 ……ちなみに最後のそれ、嘆願じゃなくて脅しになるからな。

「仕方ないですね。しかし、あんまり持ちませんので数を減らしてください」

「はいはい、分ーってるよ。どうせアイツらも、早く来るだろうし……さぁ、とっとと始めようぜ!」

 それからしばらく、データ観測の一環ということで殺されまくった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 殴られている最中に気づいたが、先のローブにはかなりの隠蔽効果があるようだ。

 技術ではなく、素材となった魔物があまりに優れていたのあろう。
 殺気は俺の感知方法が特殊なため隠せないが、それ以外のモノ──気配や魔力、姿──に関しては近くに寄らないと気づけない。

 それ相応に魔力を使っているようだが……彼らは『超越者』やそれに準ずるような強者だもんな。

「来たな。『生者』、コイツらが俺たちの同類だ。挨拶しろよ」

 並び立つローブを着た者たち。
 ……どんな奴らなんでしょうか?


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