虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
暗躍街 その02
《旦那様……その、言いにくいですが……》
「……ああ、なんとなく察していた」
暗躍街を移動中、体を走る嫌な感覚。
もちろん、死期を予感した体が反射行動をしているというのもあるのだが……尋常ではない量の発汗が答えを告げていた。
「何人だ?」
《分かっているだけで三名。異常な量のエネルギー保有者が五名ほど。こちらは解析を実行中です》
そう、さすがアドベンチャーワールドの中でもかなり闇に近い場所。
何人もの強者がこの街に根付き、その強大な存在感を放っているのだ。
「近づきたくはない、かな? ルート案内、回避優先で情報屋の元へ」
《畏まりました》
無暗に近づき、ひどい目に遭うのはいつもの展開だ。
可及的速やかにタクマと接触するため、今回はそういった面倒事はできるだけ避けておく必要がある。
超高性能AIである『SEBAS』様にかかれば、安全にタクマの元へ辿り着くルートも見つけることが可能だ。
抜かりはない、完璧なプランだろう。
──と、思っていたこともあった。
それはすぐに否定され、この街の厳しさを知ることになる。
《では旦那様、最寄りの建物の屋根へ登ってください》
「? わ、分かった」
指示通り、『擬似転移装置』を起動させて屋根の上に登った。
視界が切り替わり、先ほどまで同じ位置に居た人々が足元に見える。
まさに人が■■のようだ。
「……っと、念のため『光学迷彩』も起動しておくか」
薄らと膜のようなものが結界越しに俺を包み込み、光を屈折させて周囲の景色と同化させてくれる。
これで俺が激しく暴れない限り、俺の存在に気づける者はかなり減る……百パーセントじゃないんだよな。
「それで、この後はどうする?」
《できるだけ屋根を伝っての移動を。互いに領域を定めているのか、気配をあえて感じさせているように思えます。ですので、旦那様にはそれがあまり行き届いていない屋根を使い、目的地へ向かってもらいます》
「縄張り争いね……そりゃあ、似たような実力の持ち主が何人も居ればそうなるか」
地球でも、そんな例は多々ある。
動物だってマーキングなどで縄張りを意識するし、人間だって(ある意味)マーキングで自分の統べるものを周りにアピールする。
「ところで、どうして屋根の上まで注意を巡らせてないんだ?」
《互いに情報は集めたいでしょうし、釣りの要素が大きいのかと。目的地は気配を巡らせていない中立地帯。ここから向かうには、いくつか跨ぐ必要がございました》
「そっか、感謝する」
《執事ですので》
結界に吸着性を付与して、屋根を渡り歩いてみる……うん、問題ないな。
それじゃあ、目的地まで行ってみるか。
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