虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第一権限 その03



 闇の霧は諦めが悪かった。
 一度死んだ奴など放置すればいいのに……生体反応を確認した途端、根こそぎ力を奪おうとする極悪仕様である。

「まっ、だからと言って進むのを止めるわけでもないんだがな」

 移動だけなので、今は死に関する恐怖を完全に遮断している。
 どれだけ死のうと、俺にとっては散歩をしているのと同じ扱いとなるのだ。

《対吸生結界──完成しました》

「闇霧(仮)のサンプルは?」

《すでに回収済みです》

「なら、それで試しておいてくれ。俺はこのまま死に続けておく。魔石ももったいないから、コスパ的にもこっちの方が楽だ」

《畏まりました》

 面倒なので、以降は説明の際も闇霧としておこうか。
 解析を重ね、『SEBAS』はHP吸収を止めることに成功したようだ。

 ただ、まだそれはプロトタイプで、かなりの魔力消費があると思われる。
 使わずともいちおうは進めているのだし、もっと効率的な使用が可能となってから使えばいいだろう。

「目的地までどれくらいだろうか?」

《旦那様の死亡レーダー、またごく僅かな魔力反応しか使える探索法がございません。それらだけで推測するならば──この速度の場合、あと数時間は固いかと》

「マジかよ……」

 少し前に時計機能を確認してみたんだが、どうやらここの時間の流れはEHOの通常クロックよりもさらに早く流れていた。
 だからこそ、黒霧が早く追い出そうとしているのだろうが……精神TO時NO部屋だと思ったけど全然違うぞ。

 ──何が言いたいかというと、浦島太郎現象に遭うのはごめんだということだ。
 まあ、この場合年を経るのが早いのは俺だし、休人の肉体は基本そのままだからあんまり気にしてはいないが。

「最悪、若返りの装置でも開発すればどうとでもなるか。時属性の観測はとっくに済ませてあるんだろう?」

《はい。こちらの場合、魔道具の中に時止めの収納袋というものがありましたので。解析の方は簡単にできました》

「簡単なのかよ……」

 人間が時間や空間を操るのは、割と危険な行為だと思うんだけどな。
 超高性能AIからしてみれば、そんなこと屁でもないか。

 ……ついでに言えば、暴走状態の俺が創ってあったアイテムの中には、それっぽいアイテムもあった・・・んだよな。

 地球でも、若返りの技術は古来からさまざまな形で考えられているし、今でも機械の力でそれを可能にしようとしている。
 当時の俺は何を考えたのか、ある有名な若返りにも使えるアイテムを創っていた・・

「全部使っちゃったからな。別の用途に」

 まあ、今さらおっさんが年齢を気にしてもしょうがない……前に進もうか。


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