虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

温泉



 狐魅童子──コミによる観光も一段落したところで、蓄積した疲労を癒すことにした。

「やっぱり、癒しと言ったら温泉だよな~」

 温泉、用意できたんだよ。
 もちろん天然で、ゲームらしくバフ効果も付いた代物だ。
 こちらは星脈が正常に作動し、地下から湧き出たものとなっております。

「そこからは長かった。旅館をそこに建て、観光街風に仕立てたんだから……」

 今も鹿威しがカコーンという音を、遠くで鳴らして木霊させている。
 純和風の温泉、それがここのモチーフだからというのもあった。

「にしてもまあ、まさかここに移り住む者がいるとは思わなかった。『SEBAS』は予想していたんだよな?」

《はい。初めてこの場所を訪れた千苦の反応から、ある程度。それに、旦那様の創るものは、どれも気に入られるデザインの物が多くありますので》

「そういうものなのか? ……まあ、コミが定期的に遊びに来られるようにしておけただけでも、子供たちにはいい結果か」

 子供という存在は、時に大人が予想もし得なかったことを成し遂げることがある。

 今回もまた、子供が頑張った。
 コミが滞在することを泣き落としで認めさせ、さらには外泊まで……あちらさん、可愛いのに弱いのね。

 コミというのも、子供たちが狐魅童子を簡単に呼ぶために決めたものだ。
 従来物ノ怪とは、名を主以外に隠す必要があるので、コミ的にも問題はないらしい。

「そういえば、アッチはどうなってる?」

《式神を使い、網を広げております》

「……【魔王】に連絡だけしとくか。関わりすぎるとアレだし、カルル以外の間者が居れば簡単なんだけどな」

 盗聴器の一個や十個や百個ほど、あそこの街には設置しておいた。
 コメのある素晴らしき都なので、いつ危機に晒されても回収できるようにな。

「そう、コメだ! コメはどうなっているんだ! ライス、おにぎり、茶漬け!」

《海苔とお茶はございません》

「そうだった! ……日本風の土地だし、探せばあるよな」

《現在捜索中です》

「バレないように頼むぞ。あそこがたぶん、一番堅固で面倒な警戒網を張っている場所だからな」

《承知しております》

 日本人の食を求める活動は、正直職を求めることよりも必要なことだと思う。

 衣食住……ほら、職は無いじゃないか。
 大切なものは食べ物であり、働く必要なんてこれっぽちもないんだ(錯乱)!

「さて、東は行ったし次は西か? いずれにせよ、普通に行ってみたいな」

 まあ、これもなんだかフラグみたいな気がするけど……どうにかなるだろ、


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