虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
陰陽師談
「ほんに、食えないお方でしたな」
「……『生者』様のことでしょうか」
「そうそう、『生者』はんのことや」
央の都にあるどこかの屋敷。
少女は自身の配下に用意させた食べ物をつまみながら、ある男について語る。
その表情はとてもつまらなそうで、まるで楽しみにしていた玩具が与えられなかった子供のようにも見えた。
「いろいろと罠張ったけど、一つたりともかからんかった。少し、甘く見すぎたわ」
「……そうでしょうか。『生者』の権能は初めて生まれたものですが、彼の『騎士王』や【魔王】と比べる必要も──」
「なんにもや」
瞳に青色の炎を宿す少女は、主の言葉にその炎を無軌道に揺らす。
「え?」
「なーんにも、『生者』はんはウチに情報を残さへんかった。必要なもんだけ持っていって、ウチが探ったもんはなーにも分からないまま……気に食わんね」
「……そう、ですか」
詳細を訊くようなことはしなかった。
主の性格を知る従者は、そうして問いを自分からした者の末路を知っていたから。
しかし、珍しくもあった。
自身の主でもある『陰陽師』が策をすべて外すことなど、本当に稀であったからだ。
「少しだけした嫌がらせ、結局『生者』はんはなーんにも気にして張らなかったし、ほんに、自信無くすわー」
「では、次はどうされますか? すでに位置は確認済みですが」
「そうやな。それもダミーやろうし、今は放置でええ。それより例のプランの方は、どうなっとる?」
自身の策をすべて掻い潜られれば、執拗に追い詰める気も失せる。
気分を切り替えた『陰陽師』の少女は、式神である『鬼火』の少女へ問うた。
「は、はい。対【魔王】に関する策は満場一致で可決されました。『超越者』の中にも、受け入れてくださるお方がいました」
「そら良かったわ」
予め、『生者』を巻き込んで封印された物ノ怪を減らしたのもそのため。
周りの『超越者』につけ入る隙を与えないよう、細心の注意を払うためだった。
「ただ、どうやらそれとは別に『超越者』の方がこの国に潜りこんでいるらしく……捜索されますか?」
「誰か分かってます?」
「そ、それが……その……『隠者』様、の可能性が高く……」
その情報を知ると、『陰陽師』は深くため息を吐く。
「『隠者』はんか……何をしに、この街へ来たんやか」
「さすがにそこまでは……『生者』様が来訪する前から居たとされる情報があるので、そこに直接的な関係はない、とだけ」
「ほならええわ。今はアッチの方だけ、進めておこうか」
少女たちはまだ、話し合いを続けていく。
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