虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

巫女 その07



 かくして、新たな闘争の火蓋は切って落とされる。
 ツクルの目の前には、大量の物ノ怪たちが溢れていた。

「こんなに反対派がいるのかよ。なあ、千苦さんよ」

「……一枚岩と言うわけではない。純粋に、外部の悪意と狐魅童子様を触れさせたくはないという考えの者もいる」

「まったく、過保護な保護者さんだ」

 どこかブーメランで返ってきそうなことを呟きつつも、ツクルは隣に立つ巨大な黒鬼へ訊ねる。

「ところでさ、狐魅童子の真意は分かっているのか? そもそも守られるだけで収まらないってことは、そういう保護者様たちも理解してるだろ?」

「だからこそ、この戦いがどう終わるかが重要なのだ。守るべき盾が脆く腐っているのならば……元だろうと剣であった私は、全力で狐魅童子様の意向へ従おう」

「…………少し違うが、まあいいや。それを正すのはあの娘の仕事だ」

 引っかかる言い方に疑念を抱く千苦だが、状況的に問い詰めている暇もないので話題を変える。

「それで、どうするというのだ。まさかこの数を、純粋な力だけで捻じ伏せると?」

「そりゃあ無理な話だ。俺は虚弱であることに意味がある、最弱の『超越者』。力を頼りにしちゃいけない存在だよ」

 目の前の物ノ怪の数は優に百を超える。
 それが同じくE1に現れる魔物程度であれば、一般のプレイヤーでも容易く突破が可能であろう。

 ──しかし、ここにいるのはすべてが強力なパワーと凶悪なスキルを兼ね揃えた物ノ怪たちの精鋭。
 いくら自分を相手に勝ったとはいえ、そう簡単に乗り越えられる壁ではない……そう千苦は考えていた。

「けどまあ。俺自身の力がそんなもんでも、外部の力は頼りにしてもいいよな──そういうわけだ、もう少し頼むぜ」

「…………そういうことか」

「安心しろ。あの娘に自由な世界を見せるまでは、お前を殺させやしない。なんてったって、俺は『生者』を冠しているからな」

 ツクルのその言葉に、千苦は深くため息を吐いてしまう。

(私を倒した者に頼られるというのも……不思議なものだ。式神となって人に使える者たちも、もしかしたらこのような感覚を楽しんでいたのかもしれないな)

「作戦の一つや二つ、あるのだろうな。自分で言うのもあれだが、私は暴れることしかできないぞ」

「大丈夫だ、策はしっかりと用意してある。状況に応じて、各々臨機応変に対応することがまずは基本だ。それを意識して、できるだけ千苦には戦場を引っ掻き回してもらう……それで、俺たちの勝利だ」

 そういったツクルは、千苦に一つのアイテムを渡した。

「それを飲んだら、作戦開始だ。頼んだぜ、千苦」

「ああ、任せておけ」

 たった二人で挑む、魑魅魍魎との闘い。
 それは、一人の少女の自由を賭けた戦いであった。


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