虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
巫女 その05
《──術式のうち、制限を設ける箇所を発見しました。解析し、修正案を作成します》
「よし、見つけたか」
作業をしてしばらくして、『SEBAS』がゴールに関する情報を見つけた。
そのデータを改竄すれば、おそらくあの娘の自由へ手が届く。
「やり方さえ分かれば、技術はそこへ必ず辿り着く……その間に、隙間を作っておくか」
転移門のスペックは、その転移技術だけで最大限まで使われてしまっている。
制限を課すことで少し軽くしていたのを再びフリーにすると、転移門として機能しなくなるように仕掛けられたわけだ。
「効率をよくすればいい話だけど……そもそも転移技術は、極ムズなんだよな」
だからこそ、未だに擬似転移装置を使っているわけだ。
この鳥居を解析して、少しだけ技術を上げることに成功したが……それでも個人的に使用するなら、前に『騎士王』から習った魔術も重ねて組み合わせないとできなさそうだ。
「俺の持ちうる技術のすべてを用いて、ふざけた未来を作り変える。……って言うと、少しキザっぽく聞こえるな」
《そうかも、しれませんね。お待たせしました、改変術式の用意ができました》
「……そっか、なら始めようか」
無限の加速力を得た思考能力が、俺という人間のスペックを凌駕する速度でグルグルと回っていく。
それを何千何万にも割き、『SEBAS』からダウンロードした術式をドローンへ付加する。
「鳥居の全同時修繕、開始だ」
◆ □ ◆ □ ◆
「これは……どうなっているのじゃ……」
それは、社の中から様子を窺っていた狐魅童子にも伝わった。
──膨大な量の魔力がうねり、鳥居へ干渉しているのだから。
巫女である彼女には、ある程度境内に存在するものを感知する力がある。
そしてそれは、当然鳥居まで……。
「千苦も、そして他の者も動きを止めた。ツクルを止めようとする者は……さすがにいないようじゃな」
純粋な魔力の放出は、同じく魔力を有する者たちへ威圧感を感じさせる。
争っていた彼らも、それを本能で感じ動きが止まってしまう。
──自分たちが逆立ちをしても敵わない、絶対的な存在の出現に震えていたのだ。
「……鳥居は、社はそれを受け入れている。ツクルにやはり悪意はない。『超越者』であろうと、分かり合える者はいるのだな」
かつて、自分を救おうと制止を無視して動いた者たちがいた。
彼らの大半が『超越者』と呼ばれる埒外の存在により、この地に戻って来られなくなっていることは記憶に新しい。
それでもなお、新たな『超越者』を迎え入れたのは……共に帰ってきた、一人の鬼が居たからだろうか。
「……ツクル、千苦。お主らは、共に紡いだ何かがあるのじゃな。私はそれを、信じてみたい。怨恨とは違う、別の道を他の者たちに歩ませたいのじゃ」
彼女の願いは、自分を慕ってくれた物ノ怪たちを封じた『超越者』への復讐ではない。
それをしようと、何も変わらないことをよく理解していた。
「だから、魅せてほしい。狐魅にして孤壬の私に、新たな可能性を」
そしてそれは、たしかな形で証明される。
──鳥居が、再び光り輝くことで。
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
1359
-
-
93
-
-
111
-
-
381
-
-
239
-
-
58
-
-
145
-
-
969
-
-
125
コメント