虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
化物道
鏡面のような世界よりも、複雑で曖昧な空間が広がっていた。
一つ一つと潜る度に、目に映る光景が現実にありうる存在からかけ離れていくのだ。
「なんだか、目に悪いですね……ウプ……」
「本来であれば、あのお方が認めた者にしか通れぬ道だ。『超越者』であろうと、やはり容易くは通れぬと思え」
「……なんで、そんなに嬉しそうに語るんですかね」
いや、分かるけどさ。
憎き『超越者』の一人が、偉大な上司の力に屈している……的な?
たしかに拒絶反応から死にまくって、アイテムを大量生産中だ。
《一種の世界間移動装置ですね。安全性が度外視され、適正を持つ者……または、彼の言う通りあのお方という存在が許可した者だけが安全に通れるのでしょう》
実験ついでに結界を作動させてみれば、すぐにHPの減少は停止した。
さすがに『龍王』の結界を超えるのは、難しいみたいだな。
「しかし……どうにかなりませんかね、この景色は」
「鳥居が、あのお方の御座す場所までにある境界を超える証となっている。そこはひどく曖昧で歪で……あのお方はきっと、外の世界へ興味などないのだろう。ただある場所、そう定義しているからこそ、道は道として成り立つだけの代物となっている」
本人の資質が強くこの道と結びつき、ここまで歪んだ世界を生んでいると……。
まあ、【仙王】みたいな奴ってことなのだろうか。
自分の住む場所こそが一つの世界で、それ以上には目を向けず完結させている。
「だが、それは私たちには関係ない。私たちはあのお方のためになるよう動き、励むことさえできるなら」
「……敬愛、しているのですね」
表情を、声色を調べれば、なんとなくそれが理解できた。
どれだけの時を封印されていたかなど見当もつかない。
死の危険も何度かあっただろう。
それでもなお、変わらない想いがある。
《旦那様、お気をつけください》
「……それも、そうだけどな」
《鳥居の一つ一つが個とした亜空間となっております。そのため、座標の特定がとても不安定になっております。外部からの遠隔操作も難しく、私もアイプスルとのネットワークが一時的に遮断されているようです》
マジでか!?
そんな事態は初めてなので、対処法など数個しか用意してないぞ!
《到着すれば策の立て用もありますが、現段階ではそれも不可能です。何度も言ってしまいますが──お気をつけて》
「……ああ、気をつけておく」
この道でのネットワークを整える必要がありそうだな……うん、その気になればどうにかなると思う。
この後移動中は、常に思考の片隅で策を練り続けるのだった。
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