虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
悪鬼 その06
『王様!』
「おおっ! 前よりもペラペラ共通語を話しやがって。はら、みんなにおやつをプレゼントしに来たぞ!」
『わーい!』
群がる魔物の幼生体たちへ、アイプスル産の素材を調理したお菓子を渡していく。
時間とは恐ろしいもので、子供たちもペラペラと人間たちの言語を話せるようになっている。
「──これは、いったい……」
「この星の民たち、お前が違う存在だと定義した子供たちだよ」
うん、お菓子は喜んでもらえているな。
予め『SEBAS』やカエンを通じて確認はしていたが、実際出してみるまで不安なものだ。
こうして美味しそうに笑顔を浮かべてくれるこの瞬間、このためにお菓子作りをしたと言っても過言ではないな。
──まあ、ショウやマイに転送するというのが一番の理由だが。
「どうしたの、王様?」
「……いや、気にしなくて良いぞ。それよりもどうだ、この味は?」
「うん、美味しいよ! 柔らかいのも硬いのも、甘いのもしょっぱいのも!」
尋ねた狼の子供が、そう答えてくれた。
いろいろなお菓子を持ってきたからな。
マシュマロや煎餅やチョコやポテチ、カロリー的にも安心のラインナップを揃えた。
「……こやつらは、もともと知性を持っていたのだな」
「さあ、少なくとも最初は話すことなどできなかった。けど、こうして今話しをできるだけの知性があるんだ。そこに明確な違いなんてないさ」
知性とは、何を以って計るのだろうか。
そんな答えが出ない質問はともかく、たしかに子供たちは言語を一つ身に着けた。
その実績が、彼らの知性を証明している。
「それじゃあ、俺は行くよ。みんな、風兎の言うことはちゃんと聞くんだぞ」
『はーい!』
細かいことは風兎にお任せ!
最近はカルルもいっしょに手伝っているみたいだし、次に会う時にはもう一言語ぐらい覚えているかもな。
再び悪鬼を巻き込んで転位を行い、この場から去っていった。
◆ □ ◆ □ ◆
「どうでしたか? 彼らは」
「…………」
これだけで納得してもらえるとは、思っていないんだがな。
ある意味において、俺は幼児期からの洗脳染みた行為をしているのと大差ない。
それでも自分の目標のため、彼らを利用したことは否定しないぞ。
「彼らは、俺からお菓子を貰うために言語を覚え始めたんですよ。『おかわり』って、その一言のためにです。……仮定はどうあれ、今の彼らに知性が無いとも劣っているとも言わせはしません」
「……詫びよう、すまなかった」
どうして謝らせようとしたか……あれ? 思いだせないけど、まあいっか。
魔族も魔族で魔物を下に見るし、魔物には魔物の知性があるということを、俺は認めてやってほしいのだろう。
「──これで、決意が定まった」
瞳に真剣な色を宿す悪鬼。
それを見て俺は、心の中でげんなりとするのだった。
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