虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

悪鬼 その05


 もう一度説明を盾に契約を促してみたが、やはり悩むだけで否定の意を示してくる。

 そう簡単にいったら、世の中など渡っていけない。
 さすがに社会人だから分かるさ。

「これだけは聞かせてください──死神様の祝福を、貴方様は授かっているので」

「ん? まあ、そうですね」

 急に『貴方様』になった。
 おかしい、こういう時って俺の望まない展開になることが多いんだよな。

「先に言いますが、後付けのように丁寧語を付けられても困ります。何を言いたいかは分かりませんが、先ほど通りの口調でなければ話を聞き入れることはありません」

 うぐっと声が零れるが気にしない。
 自分もやっているので、そういうのがすぐに分かってしまうのだ。
 予め止めてもらえると、俺としても心も軽く話し合いに向かえるのだ。

「……貴様がそう言うのなら、それでいい。教えてくれ、死神様の祝福の有無を」

「うむ、持っていますよ」

「…………」

「…………」

 ダジャレをこのタイミングで言うんじゃなかったよ。
 多少後悔してから、咳払いを一つして話を戻す。

「正確には、死に関する神であることをお聞きした方から祝福を授かりました。ですので本当に死神様そのものであるかどうか、そこは保障できかねます」

「……そうか。だが、ほぼ間違いないだろうな。あのお方に見てもらえば、それも……」

 後半は聞き取りづらかったが、『SEBAS』が確認している。

 ……あのお方、ねー。
 さっきも言っていた奴だろうけど、さっきまで『超越者』ってことで目の敵にされていたことを考えると、『超越者』で無いことはほぼ確定か。

「……なあ、一つイイか」

「ええ、どうぞ」

「貴様は魔物や物ノ怪について、どういう風に考えている」

 うーん……この回答次第で、この後イベントが起きるかどうかって瀬戸際だな。
 嘘偽りを言っても意味ないし、まあ正直に言ってみるか。

「話し合える対等な存在、ですかね。ただ、魔物も物ノ怪も等しいですけど」

「……理由を訊かせてもらおう」

「構いませんよ。……ですが、そうするためには一つ、お願いしたいことがあります」

 そう言って、ポケットの中から腕輪を一つ取りだす。

「──『密偵の腕輪』、まあ姿を隠すための魔道具だと思ってください。サイズは装備者に合わせて調整されますので、ご安心を」

「何がしたい……」

「見てもらいたいのですよ、私の答えの先に何があるのかを」

 少し悩んでいたが、結局悪鬼はその腕輪を受け取り嵌めた。
 装着後、魔力を大気から自動徴収して悪鬼の姿を隠していく。

「本当に、隠れているんだな?」

「はい、バッチリですよ。一部のものには見えますが、それは私の見せたいものとは関係ありませんのでご安心を」

「……そうか」

 疑心暗鬼になり始めた悪鬼を無視し、転位装置を作動させた。

 その目的地は──


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