虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
牛車
一火によって移動させられたその場所は、ゲーム内で初めて感じる懐かしさを感じた。
この場所こそが、この世界で日本と似た歴史を紡いだ地なのだろう。
「ここが……コメの聖地」
「倭島、それがこの地の名前だ」
「倭島……」
たしか日本が倭国と名乗ることが、昔あったんだよな。
日本と似た設定だから、そこも過去のヤツで代用したのか。
「島は広いのですか?」
「……ああ、休人は区画を気にする者だと耳に挟んだな。この地を分けるならば、四区画分だのう」
新大陸は四つ、『騎士王』の国は六つ分。
しかし、日本のような場所がそれだけの面積を持てるというのも立派だろう。
「それで、コメはどの辺りに?」
「うむ。倭島の四つの区画──艮、離、央、兌なのだが、コメは主に艮の辺りだ」
えっと、たしか艮は……東北か北海道辺りだな。
たぶん北海道は無いだろうから、東北で間違いないか。
「『陰陽師』さんはどちらに?」
「無論、央で待っておる。故にこの場所もまた、央の僻地だ」
「なるほど……では、向かいましょう。歩きで行くのですか?」
「いや、そうではない」
そう言うと、懐から一枚の札を取りだす。
それに魔力を通して、地面に投げると──軽快な音と煙を立てて形を変える。
「牛車……ですか」
「あまり驚かんのだのう」
「いえ、似た技術はありますので」
うん、ホ°イホ°イカフ°セルとかな。
まさかここで、彼の技術(東洋版)が見つかるとは……。
「とにかく、『生者』殿はこちらの乗り物で主の元まで向かってもらう。あちらの乗り物と比べると速度は遅いが、その分景観を楽しめると思ってもらいたい」
「ええ、それは望むところです」
「そうか……では、さっそく向かうとしようではないか」
その言葉に従い、牛車に乗り込む。
一火は御者席に座り、移動を始める。
「まあ、主から借り受けたこの牛たちは、ただの牛ではなく駿牛だが……」
「え、それって速いヤツじゃぁぁぁぁぁ!」
「舌を噛むぞ、黙っておいた方がよいぞ」
「無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
超高速で動く牛、たしかにワイバーンと比べれば遅い方だが……普通に速いんですが。
「せせっ、『SEBAS』。しっかりと頼んだぞ」
《お任せください旦那様。それと、すぐに結界の性質を変更してください》
「へっ? あ、わ、分かった」
言われた通り、日常モードで張っていた弱い結界の設定を変更する。
今はいちおう、空気以外のすべてを拒む状態にしておく。
風は和らぎ、一息吐けるようになる。
「どうして変更させたんだ?」
《この島、『超越者』の反応が複数確認されました。お気をつけください》
えー、面倒事じゃなきゃいいけど……。
そう思う間にも、牛車は進んでいく。
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