虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ドゥーハスト騒動 その01



「……あの、どうして王城へ?」

「言っただろ? 姫様って。この方こそがこの国の姫であり、反乱を受けてる真っ最中の派閥トップ──『セーリア・シャス・ドゥーハスト』様さ」

「派閥、と言ってもたった数人ですけどね」

 すでに王城の中、なんだか煌びやかな部屋でそんな話をしていた。

 門の前で衛兵がお辞儀したし、開門は全開だったし、なんだか立ち振る舞いがアレだったからもう察してはいたが──せめて、貴族令嬢ぐらいで収まっていてほしかった。

「ロイスも煽らないでちょうだい。命の恩人なんですよ」

「そりゃあ悪いことをしたな、姫様」

「ごめんなさいね、ロイスも悪気があるわけじゃないの。口が悪いのは私がスラムで拾ってきた人だからよ」

「言葉を正せって言われてもさ、生まれてからだいぶやってんだから今さらだろ? 王様の許可はいちおう取ってあるんだし、特に問題はないんだぜ」

「そ、そうなんですか……」

 鑑定で調べてみれば、色はかなり濃い。
 相当な実力者であることがよく分かった。

「あっ、申し遅れました。私はツクル、海を渡り行商を始めた新人商人でございます」

「やはり別大陸の方でしたか。なんとなくですが想像はついていました」

「姫様を知らない奴はこの国に居ねぇよ。だから最初は目的があって近づいたと疑ったんだが、途中でそれを聞いて驚いたさ」

「あはははっ、これならばお代の方もしっかり払っていただけそうですね」

「……そうです、お代の件があります」

 深刻そうな表情を浮かべる姫様。
 重々しいオーラのまま、口を開く──

「あれだけの効能があるポーションを三本、本来は国宝級の代物のはずです」

「俺に毒は効かねぇはずなんだけどよ、なのに効いた毒にそれを癒せるだけのポーションなんだから高いんだろ?」

「必ず払います……ですが、少し待ってもらえないでしょうか? 今この国は終わりを向かえようとしています。誓約書はしっかりと書かせていただきますので、今はここから逃げていただいた方が──」

「いえ、遠慮しておきます。払ってもらうまでは帰りません」

 予めこう断っておく。
 というか、滅ぶフラグが立ってるのに帰ったら、返済なんてしてもらえないだろう。

 誓約書? 死ぬ存在に払う金なんて、一銭たりともないじゃないか。

「国に恩を売った商人ともあれば、かなりの縁が生まれるでしょう。それほどの危機であれば足りない物もあるでしょうし。よければぜひお手伝いさせてもらえないでしょうか」

「ですが……危険な目に遭わせるわけには」

 目が訝しげですね。
 分かりますよ、完全に怪しんでますよ。
 コネクションのためにも、どうにか説得しないとな。


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