虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
三本のポーション
「誰か、誰か司祭様を呼んでください!」
声の発生源は倒れた馬車の傍だった。
煤だらけの茶髪を振り乱し、周りへ回復魔法をかけてくれる人を連れてきてくれるように願っている。
その女性が、悲鳴を上げた人だろう。
「ロイスが、ロイスが私を庇って!」
その傍には大量の血を流す男が、一人地面へ横たわっている。
こちらはまあイケメンで、思わず舌打ちをしてしまった。
セリフと状況から判断して、馬車が女性に向かってきたのを庇って轢かれてダメージを受けたと……ん? 少し顔色が悪すぎる。
ただ血が抜けているだけ……ってわけじゃないみたいだな。
「はいはい、ちょっと失礼しますねー」
日本人の種族スキル『手刀介入』を使い、野次馬の中を突き進んでいく。
こちらの人たちは素直で、それを受けると道を開けてくれる。
「……し、司祭様でしょうか?」
「いえ、ただの行商人です。もちろん、今お二人が必要とする物を持っている商人でございます」
一瞬顔色が変わるが、すぐに切り替えて女性は俺に頼む。
「ポーションですか……これだけの傷を負っていると、かなり階級の高い物でなければ治せません。本当に治せますか?」
「それはもう、代金さえ頂ければ」
「分かりました! お金ならいくらでも払いますのでお願いします!」
「はい、お買い上げありがとうございます」
言質は取ったのでさっさと作業を始める。
偽装用のバッグへ手を突っ込んで、“インベントリ”の中に入れておいたポーションを数本取りだす。
「これが治癒用、これが増血用、これが──状態異常用です」
「えっ? 状態異常なんて……」
「なら、これが意味を成さないときは無料にしておきましょう。とりあえず、飲ませるだけなら問題ありませんよね? 鑑定持ちの方がいれば、安全性も確約できますが……信用してください」
「……お願いします」
許可を得たので一つ一つ飲ませていく。
最高級の物ではなく劣化品なので、効果が出るまでに少し時間がかかっている。
それでも破裂した内臓は修復され、失われた分の血も体の中に流れていく。
「状態異常用の物ですが……やはり、必要となりましたね」
だが男の顔色は未だ悪く、死を向かえる間際の老人のような色だ。
すぐにポーションを流し込んで、嚥下させておく。
「ああ、ロイス!」
「……ひめ、さま?」
「ロイス!」
おいおい、嫌な単語を聞いちゃったよ。
五臓六腑に染み渡ったであろうポーションの効能によって、顔色は平常なものへ戻る。
……やはり、毒か何かをやられていたか。
「すみません姫様、アイツら暗器で毒まで盛りやがったんで」
「いいのよ、ロイス。今無事でいるんだから気にしないわ」
「そりゃあよかった……そこのアンタ、もう話を聞いちまったよな」
「ええ、まあそれなりに」
「聞かれちまったからには仕方がねぇ、お前もいっしょに来てもらうぞ」
なんだか口の悪い騎士にそう言われた今、面倒事に巻き込まれたことは確実なようだ。
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