虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

受け渡し



 簡単な話、それが罰だと言われた。
 四天王であるのに【魔王】の言葉に異を懐き、確証もないのにそれを口にしたのが駄目だったらしい。

 詳細は聞いていないが、本人にとってかなり重要なことを否定されたとのこと。

「もともと実力はあるが人間を下に見すぎていてな。それは理解しているだろう?」

「まあ、殺されかけましたからね」

「そして今回、その舐めていた人間に負かされた……四天王としては許され難いことだ」

 弱肉強食……といったところか。
 そういう制度を星に用意してないから、うちの魔物たちはのんびりしてるんだけどな。

「四天王に憧れる者たちに敗北を見せた、それはもうクビと同じだ。【勇者】や【英雄】ならばまだ同情も買えるが、『超越者』の存在は上位の者や知恵ある者しか知らない……どうしようもない」

「それで私にあの子を渡すと。私が殺すかもしれませんよ」

「そうであったならば、それが奴の運命だったと思うだけだ。それだけのことを……奴はしでかしたのだから」

「──ッ!」

 冷酷な瞳を、このときの【魔王】は浮かべていた。
 どうしようもない未来、それが確実にあの子へ待っていると気づいてしまう。

「…………【魔王】直々に周りに伝えてください。あの子が俺のところに来ても、反逆者として扱わないと」

「ああ、分かった」

「城に来るのは駄目なんでしょうか?」

「駄目だ。我は思わぬが周りから見れば、それは諜報活動でしかない」

 さすがに無茶な願いか。
 あとで帰してあげられるように、してあげたかったんだが……スパイ疑惑がある者を受け入れるほど、周りも寛大じゃないか。

「とりあえず、あの子は【魔王】が俺との交友関係のために送りだした外交官とでもしてください。できるなら四天王とは別の新たな役割として、重要な仕事としてです」

「ああ、『超越者』の一人と手を取り合えるのだ。分かる者ならばその重要性が理解できる。任せておけ」

「周りが不満を挙げた時のために……いちおう、これを渡しておきます」

 物で釣っているみていで嫌なんだが……俗物な奴らはこれで納得がいくだろう。
 取りだしたアイテムを、【魔王】に渡す。

「──確実に状態異常が回復するポーションです。枯血でも欠損だろうと、高位の呪いでも治せます。体の一部にかかれば使用できますので、生を謳歌したい者ならば必ず価値が分かるでしょう」

「…………よく分かった。こちらも全力で動くことにしよう。受け渡しまでの間、奴の保護は我が直々に行う。任せておけ」

「ありがとうございます」

 裏切り者フラグを立たせれば、【魔王】をよく思わない者に殺されてしまう。
 これはそれを認めさせる対価、まあ解析してもまったく分からないと思うが。

 この後俺は転位して星へ還る。
 すべての処理が終わるまで、まだ時間がかかるからな。

 次に会うのは──数日後だ。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品