虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VSミストゴースト その後



「大丈夫ですか? 今、ポーションを渡しますので」

「……人間……ごときが……上から……語るなっ!」

「語る必要などありません、目の前で苦しむ人がいれば救う。それが『生者』の役割ですから。──ほら、しっかり飲んでください」

「……分かっ……た……」

 倒れ込んだまま起き上がれていない少女の口へ、ポーションを流し入れる。
 即効性はないが、時間をかければ必ず完治するという代物だ。

 さすがに初期のスーパーポーションをこの場で使う必要はない、バレたら【魔王】が何か言ってきそうだしな。
 飲んで体が少し癒えたからだろうか、少し不思議そうな顔をしている。

「寝ていれば治りますので、今はゆっくりと休んでください。それまでの安全は──私が保証しますから」

「……どう、して……そこまで……や、さしいの……? わ、たし……は、アナタ……をこ、殺そ……うとした」

「喋らないでください、体が自動的に眠ろうとしていますので。──ただ、私はアナタとも仲良くしたかったのです。目が覚めたらお話でもしましょうか。アナタと同じくらいの子供が居るんですよ」

「……うん……」

 少女は重くなった瞼を閉じ、満足げな表情のまま医療班に連れていかれた。
 たしかに殺されたのだがそれはいつものことだし、一々怒るようなことでもない。

 それよりは、彼女との関係を良好なものとして魔族間の交流を深めた方が良い。

「──何より子供だからな、下手に傷つけられないよ」

 子持ちの父は子供に甘いのです。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 勝負を終えて謁見の間に戻ると、【魔王】から言葉をかけられる。
 四天王この場はこの場に居らず、完全に二人っきりだ。

「どうだったか? 我の四天王の一人は」

「とても強かったです。こちらの切り札の一つがバレてしまいました」

「ハハハッ、そうだろう。奴はミストゴーストの中でも特異な力を持っていてな、隔離するという理由もあって四天王に引き入れた」

「その力とは?」

「それは……いや、このことは奴自身から訊いた方がよかろう。おそらく奴も、お前のことを気にいるだろうからな?」

 うーん、それは無いと思うんだが。
 あくまで人間に恨みを持たないようにするのが目標だが、たった一回でそうなると思える程俺は驕っていない。

 回数を重ねて少しずつ距離を近づけて、やがて分かってもらう……そういう風に考えていたんだが──

「まあ、それはよい。ところで『生者』、報酬の話をしていなかったな──奴を奴隷として譲渡するということでよいか?」

「いえ、お断りします」

「あっさりと断ったな。タイプではなかったのか?」

「あいにく斡旋は請け負ってませんので」

 さて、この言葉の裏にはどういった意味が隠されているのかな?
 正直、嫌な予感しかしないんだが……。


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