虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
魔王談 後篇
「──待たせたな、お前たち」
『【魔王】様!』
異形を身に宿す自分たちの王の帰還で、即座に跪く彼ら四天王。
その様子を一瞥すると、【魔王】は機嫌よく椅子に座る。
「よい、面を上げよ。今宵は愉快な日だ。故に我も機嫌が良い」
「おお! おめでとうございます、【魔王】様!」
「ああ、これもお前たちの支えがあってこその結果なのかもしれん。大いに感謝しよう」
爛々と光る龍の瞳で彼らを見つめ、感謝の意を述べる【魔王】。
その言葉に少し驚きを感じつつ、すぐさま頭を下げて『もったいなきお言葉』とだけ全員で述べる。
「ところで【魔王】様、どういったものだったのですか?」
「……どういったもの。何のことだ? カルル、我に分かるように言ってみてくれ」
「何ってもちろん、あの『超越者』が残した権能の……ひっ!」
言葉を止め、短く悲鳴を上げるカルル。
これまで上機嫌だった【魔王】の表情がひどく歪み、彼女の種族である天敵の魔物の力が具現化させていたからだ。
荒れ狂う魔力の奔流は、直接その怒りを買わずにいた周りの四天王にも影響を及ぼす。
全員が緊張感に震える中、【魔王】はゆっくりと口を開く。
「ゴミ、ゴミか……カルル、それはまさか我の友人のことを挙げているのではないか? 我は言ったはずだ、今宵は愉快な日だと。まさかとは思うが……そんな日に信頼できる四天王を殺させる、なんてこと。させる気はないだろう」
「お待ちください【魔王】様! 【魔王】様は、奴の権能を奪ったことをお喜びになられているので──っ!」
「ヒューシ、貴様もか。我は言ったはずだ、我の友人であると。権能? そんな小さきもの一目見た時から価値など無いと気づいていた。『生者』の権能は、『生者』にしか振るうことのできぬ唯一無二の力だとな」
放たれる膨大な魔力、そこに本物の殺気が感じられることに恐怖を感じる四天王たち。
いったい【魔王】様に何があったのか、それを少しずつではあるが理解していく。
──だがそれでも、信じられなかった。
故に言葉を重ね、その真実を【魔王】本人から訊きだそうとする。
「まさか、まさかの話でございます【魔王】様。もしや──残機が減ったので?」
「おいセネブ、あんなや……『超越者』だからといって【魔王】様が俺たちに気づかせることもなく殺られるわけねぇだろ! ならどうして、【魔王】様は笑ってんだよ!」
殺気を放つ【魔王】だが、時折何かを思いだすように小さく笑みを浮かべる。
それはまるで──彼らの会話を耳にすることで、そのときの想いを追体験しているようでもあった。
「正義を執行するだけの【勇者】、力を弄ぶだけの【英雄】、意味のない祈りを捧げ続ける【聖女】──そして、誰にも殺せぬ空っぽな【魔王】。『超越者』という埒外の存在を度外視すれば、奴らの歴史において記されるべきはこの四つのみ。星渡りの者どもが現れようと、この事実は揺らがぬと思っていたのだが……違ったようだな」
笑みは口角がつり上がるものとなり、やがて大声で笑い始める。
「ふはははははっ! 誰が信じようか! 赤子よりもか弱い男が、自らの手を汚すことなく【魔王】殺しを達したと! 【勇者】にも【英雄】にも【聖女】にもできぬ……いや、やらせぬ! この所業は友だけのモノだ! これは始まりだ! 終わりだ! 創生だ! 終焉だ! ──総てが反転し、理が崩されるのも近いだろう!」
自分だけに分かる言葉を並べ、空を見上げる【魔王】。
そこで何者かが自分を見ている、そう確信して。
「誓おうではないか、我──今代の【魔王】は友好的に『生者』と接すると! やっと見つけた先代の言う可能性! 我自身の目でみせもらおうではないか──神よ!」
一方的に捲し立てた【魔王】は、呆然とそれを眺める四天王たちに気づくことなく笑い続ける。
その言葉が神に届いたかどうか、それはまさに神のみぞ知ることである。
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