虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カムロドゥノン その04



「なぜだ! なぜアイツがそこにいる!」

 軍を率いていた魔族は、その遠くに見える一人の男に目を剥く。

 無防備な姿を晒す、茶色の髪を伸ばした普人族の男。
 大した力も感じられず、武器すら持たない愚か者──かつて、彼はそう感じた。

「奴もまた、星渡りを行う者……今は休人と名を偽っていたな。まさか、この私を謀っていた? いや、アレはそうではない。知らされていなかったのか」

 本来、星を渡す術は魔族である自分たちにしか存在しなかった。
 しかし、あるときを境に自分たちとは異なる術を以って星を渡る者が現れ始める。

「奴らは私たちも知らない、『超越者』とはまた異なる異常性を持つ。奴の不死性は、もしや休人と『超越者』としての権能が混ざり合って生まれたもの……そんなもの、今まで誰一人としていなかったではないか」

 彼の思考は加速し、思いついてはいけない領域にまで達する。
 異常と異常が重なれば、それはある種の正常となる。

 それは、一つの概念。
 不死の男は、彼だけの世界を創りだした。

「奴は死の法則を統べた。『冥王』とも『天死』とも違う、新たなやり方で。今はまだ、奴だけを対象とした法則。だが、もし他の者が導かれでもすれば……」

 いずれ来たり得る可能性。
 自らが仕える主の障害となる、新たな存在の発覚。
 たとえ間違っていても、それは喜ばしいことであって悪いことではない。

「この戦いで見定めなければ……奴が、私たちの王である【魔王】様に届き得る存在となるのか」

 男は指揮を行う魔物に指示し、進撃を開始させる。

 そして自身もまた、戦支度を整えていく。
 ──すべては、【魔王】様のために。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「今回はどうするのかな? いつものように巻き込まれたわけだけど、今回の戦いでようやく魔族にも伝わるみたいだね」

「どうしてそうも嬉しそうなのだ。またあの刃を使われれば、仕事が増えるのだぞ。やれやれ、急ぎすぎたか」

 傍観者たちは、今回もまたツクルの活躍を覗き見ていた。
 すでにツクルの視界には膨大な数の魔物が映っている。

 いったい何を始めるか、そのことを楽しそうに待っていた。

「【救星者】の方はどうなっている。まだ何も変化していないではないか」

「みんな忙しくてね、僕の言葉が届いていないみたいなんだよ。ツクル君に接触すれば、彼に仕込んだメッセージが伝わるはずなんだけどね」

「奴らはまだ、信仰を集めているからな。お主のように暇ではないのか」

「◆◆◆◆、アポはどうなってるんだい?」

 少年のような容姿をした存在は、後ろで静かに控えていた女性に問いかける。

「魔族関連の事柄に当たるため忙しい、それが終われば会うと仰っていました」

「なら話は早い、ここでツクル君のこれから行うことを映像に纏めておいて。それを見せれば▲▲▲▲も分かってくれるさ」

「……畏まりました」 

 さまざまな意志が絡む中、『騎士王』の領土を争う戦いが幕を開ける。


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