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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔術



 心も癒えて、俺の足取りはとても軽いものになっていた。
 負荷に耐えれたならスキップでもしていたが、大人しく歩いて移動中である。

「いやー、なんだかいいことありそうだ」

「おお、『生者』ではない──」

 ボタンを即座に押し、退場を願う。
 幸い騎士が買収されている、ということもなく、無事現れた王様は元の場所へ帰った。

「一発で帰ってもらえた……本当に、今日はついているのかもな」

 本当にスキップでもしようかな? より軽くなった体につい笑みも出てしまう。
 いいことでもあるのだろうか、そんなことに期待しながら移動していく。



 そして気づく──あ、俺ってLUC0だと。
 そして気づく──そもそも、イイことが続く日って、だいたい後でロクな目に遭わないよね、と。

「な、なぜここに……」

「甘い、甘すぎるぞ『生者』よ!」

 目の前にはなぜか、先ほど召還させたばかりの『騎士王』がいた。

 取り出したボタンはすぐに没収され、俺がボタンをまた出さないかを観察している。 

「い、いったいどうして……襲撃は一日に一度のはずでは」

「簡単な話だ──転移の術を覚えた」

 ギャー! この万能チートがー!
 俺が擬似転移装置の作るのに、頭をどれだけ絞ったと思ってやがる!

「そ、そんな……俺には、もう襲来を防ぐ術はないというのか!」

「……そこまで落ち込まれると、さすがに傷つくんだぞ」

 何か犯人が言っている気もするが、俺の傷心した心はそれを受け入れない。

 つ、ついに移動手段まで自力で手に入れやがったよ!
 ……俺、もうコイツの遊ぶための玩具オモチャとして生きてかなきゃ駄目なのかな?

「まったく、魔術の習得は『騎士王』としての補正があっても大変だったのだぞ。これもすべて、『生者』が悪いのだ」

「……えっ、魔術?」

「こちらだと魔法であったか? 二つは似ているようで、異なる物なのだ」

 そこから、それらに関する話を聞き続けることになった。

 場所は改め焼き串の屋台。
 肉を食いながら聞いた話を纏めると──

 ・魔法は課金、魔力で機能を追加する
 ・魔術は設定、予め用意された機能をやりくりしていく

 と、いうことらしい。
 魔術に関してはあれだ、ゲームでもよくある設定ページをイメージしてくれると早い。

 音量はどれくらいなのか、明るさはどれほどかなどを魔術に関する事柄──威力はどれくらいなのか、速度はどれほどかなどに変更されているのだ。

 魔法ではできない、コストパフォーマンスに挑戦した結果生み出されたのが──魔術なのである。


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