虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

フレイムディア



 お次に向かったのは、貢献イベントでお世話になった世界だ。

 その中でももっとも長期滞在をしていた場所──エルフの隠れ里に俺は居た。

「やあ、『生者』君。貿易を締結してから、君自身がこちらに来るまでに少し時間が空いたようだね」

「ええ、少しやることがありましたので」

 そして今、里長の部屋で座って対談中だ。

 里長に挨拶を交わし、貿易に関する近況報告を確認しておく。
 情報は魔物にも集めさせているが、エルフ側の情報を確認しておきたかった。

「──それで、森の中で狩りをしたいとのことだったね。特に構わないけど、何か特別な理由でもあるのかい?」

「少し神様が企画した祭りの一環で、いろいろなことに格付けが行われまして……。とりあえず、狩りをしようかと」

「ふむ。曖昧な理由だけど、時期が良い。それなら少し、ちょうどいい魔物がいるよ」





 そして今、俺はスリュと森の中にいた。
 再び渡した銃を構え、道を案内してくれている。

 里長が頼んだのは、魔物退治。
 ある時期になると現れる、面倒な魔物なんだそうで──

「フレイムディア、群れで森を焼く厄介な魔物だ。矢は纏う炎に焼かれ、精霊たちの魔法も水精霊以外だとあまり効果を成さない」

「フレイムディア……炎鹿でいいですか。つまり、その炎が厄介な魔物なんですね。纏う炎以外に、火を吹いてくるということは?」

「ああ、火魔法まで使いこなす個体が居る」

「本当に厄介な魔物ですね」

 森で火、どういう進化を遂げたらそこまで非効率な生物が誕生するんだろうか。

 魔力の概念が生物のありようを大きく変えている……それを分かりやすく示していた。

「使える部位はどこですか?」

「通常の鹿と同じく、角は鏃で皮は外套。肉は食べられる部位を自分たちで、そうでない部位はフリュたちだな」
『キィエ!』

「炎の皮、というのも加工が大変そうなんですけど……」

「すでに技術はできている。耐火性能の高い魔具になるから、需要はかなりあるぞ」

 塗料にでもして、家に塗りたくれば火事の発生率も抑えられるかもしれない。

 素材としては優秀、だけど生物としては害獣なんだよな……。
 乱獲される運命にある、地球だったら色んな団体が保護しそうな魔物だよ。

「とにもかくにも、その炎鹿を討伐しないと森が焼かれてしまうんですね。早く見つけないと……おや?」

「もう見つけたか──たしかに、炎が弾ける音が聞えてきたな」
『キィエ』

 俺もスリュも、炎鹿の反応を見つけた。
 俺たちはすぐに、その場へ急行する。


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