虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

行商



 漁村は言語が異なる点を除けば、ごくごく普通だったといえよう。 

 別の大陸なんだし、その点に関してもとやかく言う気は無い。
 ただ、他のプレイヤーたちが彼らの言葉へどう対処するのかが気になった。

 今までは標準語に聞こえていた言語が、突然訛りの強い地域の言葉に変換される──そういった風に感じた。

 大まかな理解は確かにできる、だがはっきりと認識したわけじゃない。
 スキルとして言語が出るのか? それともまた、別の方法があるのか?

「──そんなことを考えながら、行商人として活動する俺なのだった」

 EHOでは、通貨が神様によってどこでも共通になっている設定だ。

 ○○の神、に金に関する概念を司る神がいると本で見た。
 だから大陸全土で同じ通貨だと思えば、別の大陸でも行き渡っているサービス感。

 ポーションや薬草、塗り薬を並べて販売していく。
 彼らの所持金を瞬時に『SEBAS』が見抜き、ギリギリ手が届きそうな額を提示して売りつける。

 ……そこだけ聞くとボッタクリっぽいが、定価より安いからそうではない。
 というか、定価なら村の金を巻き上げても足りないからな。

「どうかされましたか? 行商人さん」

「あ、いえ、なんでもありません。それよりすみません、こんなぽっと出の怪しい行商人のために、わざわざ皆様に集まっていただけるなんて」

「いえいえ、お気になさらず。いつもこちらにいらっしゃる方なんですが、こちらの願いもあってポーションは持ってこないのです。ですから、貴方様がポーションを私たちでも買えるような価格で売ってくださるというのは、喜ばしくあっても迷惑にはなりません」

「は、はあ。そうですか」

 ポーションは“インベントリ”や空間属性が付与された物の中に入れておかないと、すぐに割れるし劣化する。
 そうした輸送費も含めて、ポーションは高額になる場合がある。

 プレイヤーの“インベントリ”は、中に荷物を入れておけば時間は経過するが外的影響が受けづらくなる。

 持ち主が取りださない限り、消費期限切れ以外の理由で使えなくなる……などといったことにならないのだ。

「それにしても……よろしいのですか? こちらでは不遇の魚ばかり、もっと別の物でも構いませんよ」

「いえいえ、世の中には特別な需要を持つ物がありまして。貴方がたの村で獲れる魚の中にも、そうした物があるだけ。私はそれを頂ける。貴方がたはお礼に軽傷用のポーションが貰える。これだけの話です」

 外国ではタコが毛嫌いされるように、日本では需要があるがこの村では使われることのない魚、というものがあった。

 俺は希釈に希釈を重ねた極薄ポーションを渡し、代わりにそんな魚を大量に手に入れたのだ。

「──では、そろそろ本題に入りましょう」

「ええ、すり合わせですかね」

 この後、この村の村長にいろいろと教わってから、一度この場から去った。

 転位陣も村の近くに置いたし、その気になればいつでも来れるようになったぞ。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品