虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
錬金王談
そして、ツクルのいなくなった館の中。
二人の少女たちが会話を行う。
「師匠様、珍しいですね。師匠様があんなに長い間人と話すなんて」
「ユリル、私はこれでも話すのは上手いぞ」
「上手いですけど、その話術は会話を早く終わらせるためのものじゃないですか。知ってますよ、師匠様が『超越者』の方々にしていた交渉のやり方」
「む。アイツらめ……」
ツクルにはあたかも頼みごとをした、と説明した『錬金王』だが、実際には脅迫紛いのことをして素材を徴収していた。
今日に至るまで『錬金王』として代理で活動していたユリルには、そのことを何度も他の『超越者』から訊かされている。
「そうは言ってもな、アイツらはそのとき何も返していなかったのだ。ポーションを欲しいと言うから渡した『海王』も、警備が欲しいと言ってゴーレムを半ば無理持っていった『天帝』もな」
「皆さん、話せば分かってくれましたよ。それに心配もしてました。『神手』さんなんて協力できることはないか、何か必要な物はあるか必死に訊いてきましたよ?」
『超越者』の中にも、『錬金王』の安否を心配していた者もいた。
もともと『錬金王』は、他の『超越者』に錬成したアイテムを分け与えていた。
その恩から、ユリルにエリクサーの素材を用意した物もいるのだが……『錬金王』は額に手をやって項垂れる。
「……アイツか。あの神の手を正しく使えれば、役に立つんだがな」
「?」
「知らんでいい、お前は純粋なままであってくれ」
先ほど名前の挙がった者の一人が、光速で手を動かす様子をイメージしてげんなりとする『錬金王』。
無垢なユリルは首を傾げるだけで、なぜ自分が会った『神手』がそこまで言われるかは分からない。
──しいて言うならば、まだ対象の域に達していなかったのが理由である。
「それで師匠様、これからどうされるんですか? また新たな極地を?」
「今はゆっくりとしたい。ただ寝ているだけの生活も飽きたが、すぐに動きたいというわけでもない。目的を見つけるまでは、部屋に籠もっていようか」
「そうですか……。またこれまでのように、質問をしに行ってもいいんですよね?」
「ああ、構わないぞ。何か分からないことがあれば、一通り調べてから来い。今のお前なら、ほとんど来ることはないだろうがな」
今の『錬金王』と先代の『錬金王』。
二人の錬金術師はひっそりと、どこかに在る館の中で暮らしている。
ツクルがその館を再び訪れるのは、そう遠くない未来の出来事である。
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