虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
錬金王 その04
部屋中に溢れだす、カプセル内の液体。
そうなることが予想されていたのか、床の材料である木は水を弾き、用意されていた排水溝に流れていく。
「……そうか、もうできたのか」
少女は手を握ったり開いたりを繰り返し、自らの体の調子を確かめている。
何度も何度もそれを行い、ようやく止めたかと思えばユリルの元へ向かってくる。
「ユリル」
「し、師匠様」
「お前が、独りでエリクサーを作り上げたというのか?」
「は、はい! あ、いえ、そうでは──」
「そうかそうか! さすがこの私が生み出した自慢の娘だ!」
ヒシッとユリルを抱きしめる『錬金王』。
ユリルはアワアワと戸惑いながらも、彼女の温もりを感じようと強く抱きしめ返していた……ん、娘?
「……なあ『SEBAS』、ユリルってもしかして──」
《はい、旦那様の予想通りです。解析も行いましたので、間違いありません》
Oh! なんてこった。
この数時間、俺はずっとその間違いに気付けなかったぞ。
子供って、喉仏ができる前は判別が難しいもんな?
中性的な格好だったし、一人称が『ボク』だったからてっきり男なのかと……。
さて、しばらく二人の百合百合しい光景を見ていると、ようやく気が治まったのか抱きしめ合いが終わる。
「──何、お前だけの力じゃないのか?」
「だ、だからそうなんですよ師匠様! そこにいる『生者』さんが、混沌蛙の毒液を分けてくれたんです」
「……ほお」
「しかも『生者』さんは、師匠様と同じ『超越者』の方なんです」
「そうかそうか。それはぜひ、お礼をしないとならないな」
すいません、目が光って怖いです。
魔力が籠もった視線を浴び、何度も何度も死んでいるんで止めてくれませんか?
「客人……いや、『生者』と呼ぼうか。とりあえず二人だけで話したい。ユリル、すまないが部屋から出てくれないか?」
「わ、分かりました」
ユリルはそう答え、本当にこの場所から出ていく。
嗚呼、最後の希望が消えていく……。
「礼が必要のようだな。うちの娘に貴重な素材を分けてくれたこと、感謝する」
「いえ、お気になさらず。もともとは、ユリル……ちゃんが見つけていたものを横入りで倒したので。正当な報酬として、あの毒液はお譲りしました」
「ふむ、そう……ふぇくちゅ!」
「…………」
まあ、ずっと裸体だからな。
そう思って服を貸してやろうと思ったのだが、その必要はないらしい。
『錬金王』が指を一度鳴らすと、一瞬で服を身に着けた状態に変わっていたのだから。
「すまないな。永い間眠っていたからか、体の免疫力が低下している。昔ならば、永久凍土だろうと平気だったのだが……」
怖いよ、やっぱり見た目通りじゃなかったよこの人も。
というか、永久凍土ってどこ!?
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