虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
漂流
「……こ、ここは?」
気がついて、最初に目にしたのは砂。
とてもサラサラしており、少し握ると柔らかい感触が返ってくる。
最初に耳にしたのは波の音。
ザザーンと押しては返すような音が、耳の中でエンドレスに木霊していく。
最初に感じたのは焦がされるような陽光。
上から太陽に照りつけられて、体がジリジリと焙られていく。
最初に味わい嗅いだのは潮。
鼻を通して磯の香りが伝わり、口を通してしょっぱい塩分が感じ取れた。
「なんだ、海か…………って、どんだけ流されてんだよ!」
あまりに膨大な時間を流されていたので、つい飽きて結界の中で簡易ログアウトをしたしまった。
──簡易ログアウトとは、すぐにゲームを始められるポーズ機能みたいなもんだ。
それをやっている間にトイレ休憩などを済ませ、万全の準備を整えてからログインしてみれば……この結果だ。
気が動転して慌てていたが、マップ機能を使えばどこにいるかすぐに分かることに気づいた。
《現在地:冒険世界.S9W6……》
──が、時には分からないこともある。
どうして俺は、十五区画目にいるんだ?
「『SEBAS』、プレイヤーはここまで到達しているのか?」
《南方面は、S6で止まっております》
「……まさか」
《そこが港町で、それ以降は特殊なクエストで船を手に入れなければ進むことができないからでございます》
「やっぱりか……ハァ」
S6が港町って情報は知らなかったが、普通そうなりゃ止まるか。
海を渡るためには水中に適性を持っているか、渡るための何かを所持している必要があるからな。
俺の場合は結界があったので、ドンブラコと流れてきたわけだ。
「この場所にドローンは?」
《来ております。が、まだ全体図のみしか空撮しておらず。詳細はのちほどに》
「構わない。投影してくれ」
《畏まりました》
投影装置をこの場に出し、『SEBAS』が情報を送ってくれるのを待つ。
そして数十秒後、投影装置が勝手に動き出してホログラムを出現させる。
「……無人島、か?」
《船を何度か停めた形跡がありました。おそらくは、休憩地点だと思われます》
大陸とは言い難く、日本で例えるなら……世界遺産がある沖ノ島ぐらいだろうか。
形も若干似ているので間違いない。
「生き物はいるようだな。死亡レーダーにかなり反応がある。海の方はもっとたくさんいるみたいだが」
《しかし、どうなされますか? ご帰還であれば、死に戻りを行うことで簡単に可能ですが……》
「味気ないしな。ここの探検を終えたら、もう一度ドンブラコしてみる。これも、まあいちおう冒険だろ」
流されて○○島、なんてのもワクワクするからな。
とりあえず──冒険してみようか。
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