虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

闘仙 その08



「一言で言えば、後続思いの老人だ。自らを人柱としてあの場所を造り、次代の【仙王】たちが迷わぬよう見守っている」

「アタシのあの生活にケチを付けてなかったけど、それなら問題なかったんでしょ? なら早くアタシを家に――」

「時に【仙王】の選別を間違える。今までの【仙王】全てが善良であったわけではない。そうした悪意を持った【仙王】を初代である【仙王】が捌いてきた」

『仙郷』の長い歴史の中でも、そうした者は何度か現れ――歴史の表舞台に現れる前にほとんどの者が処理されていった。
 逃れられたものは【仙王】の力を捨ててでも逃げ延びようとした者のみ。
 力に固執した者は――誰一人として生き残ることはなかった。

「……【仙王】って単語ばっかり。それじゃあそれ以外の人には優しいの?」

「…………そう、だな。基本、初代【仙王】は善良であった。だが、それと同じくらいこの『闘仙』の名が似合っていた」

 かつて見た【仙王】の姿を思い返し、そう思う『闘仙』。
 ツクルに進めた修行場とは、初代【仙王】が今も残るダンジョンの奥深く。
 そして今、きっと二人は相見えているだろう……直感で気づいていた。

「早く戻っていこい、『生者』。そして、地下で鍛えたその実力を魅せてみろ」

「…………ローさん、多分ローさんの望む展開にはならないと思う」

 なんとなくなのだが、【仙王】は『闘仙』の願いが叶わないことを察する。
 それが【仙王】が故の予告なのか、それともまた別の理由なのか。

 どちらにせよ、どちらの意見も正しかったといえよう。
 たしかに二人は相見え、戦い力を鍛えることとなった。
 たしかに闘いはしなかった、それでも力をぶつけ合うことはあったのだ。

 ――真実を知らぬ二人は話をもう少し膨らませようとしていた。
 だが、それは一人の衛兵の報告によって中断される。

「【仙王】様!」

「……ん? なーに、リー」

「帝国です! 帝国が精鋭を連れて攻めてきた模様です!」

  ◆   □   ◆   □   ◆

『…………』

「あ、もう満タンだ」

 仙丹を封じるエネルギーパックが、気づけば限界量まで溜まっていた。
 まだ【仙王】や『闘仙』さん程の仙丹を溜められないんだよな。
 今回の実験の副次結果として大量の仙丹が手に入ったからそっちも実験だ。

 仙丹を吸われ続けて力尽きたように倒れ伏した初代【仙王】に話しかける。

「それじゃあ、もう終わりで良いですか?」

『……構わん。儂はしばらくここで休む。宝物庫はそっちにある』

「あ、すいません。助かりました」

『ただし、コアに触れるでないぞ。あれは、人が触れて良い物ではない』

「分かりました、触りません」

 そう、俺は触らないことを誓おう。
 並べられた宝の山を見てそう思った。


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