虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
仙王 その13
宣言通り、ゆっくりと歩を進めていく。
小細工など一切せず、ただただ慌てることなく歩くだけ。
だが、それこそが相手の恐怖感を煽る。
「こ、来ないで」
「…………」
足が地面を蹴る音だけが、空間内に木霊していく。
誰かが唾液を嚥下する音すら聞こえる程、静寂に満ちたこの瞬間。
俺の言葉が本気だと理解した【仙王】は、はたしてどのような手を打つのか。
「来ないで!」
拒絶、それが【仙王】の選択。
超強力な攻撃の嵐、怒涛の仙術による洗礼が俺に襲いかかる。
全身でそれを浴び、最後には再び何もない空間に呑み込まれた。
だが、それでも俺は平然と前に進む。
「……ひっ」
一種のホラーになってきた気もするが、相手の戦意を削いで確実な勝利を得るためにはこれ以外の選択肢は望めない。
放たれた【仙王】の攻撃全てをあっさりと無効化した(かのよう見える)俺は、【仙王】にとって理解不能としか思えないだろう。
青白い顔で俺を見る【仙王】。
作業服なのがちょっと意匠不足だが、そこも謎な感じでまあアクセントになっている。
「ツ、ツクルさん? もう、それぐらいにした方が……。ほら、【仙王】様も戦意喪失していますし」
「何を言っているんですか? 私の勝利条件は、【仙王】様に触れることです。それまで私が手を緩めることは、決してありません」
「で、ですが……」
「大丈夫ですよ、私に任せてください」
何を安心すればいいのか全く分からない状況下で、俺を何を言っているんだろうか。
答えは後で出せばいいかと考え、【仙王】の元に近付いていく。
年端もいかない幼気な少女に、いったい俺は何をしているんだ……とも思う。
だが、『闘仙』さんとの約束を果たすためにもやらなければならないのだ。
「さぁ、あと少しですよ」
「――――ッ!」
瞬間、【仙王】は全力で逃げた。
仙丹を身体強化に使い、空間転移を発動しての逃走だ。
空間転移って、体に響くからな。
先に体を強化しておかないと、疲労感がかなりあるんだよ。
「仙丹が尽きた時、それが終わりですよ」
この空間に、霧は存在しない。
大気中にも微量にあるらしいが、空間転移などという燃費の悪い技を使っていればいずれは尽きることになる。
鬼ごっこ、それはそう長く続かなかった。
「……グスンッ」
「……ようやくか」
そもそもこの勝負、ルール改訂をした時点で俺の勝利となっていた。
だって、負ける条件が無くなったし。
仙丹が尽きても必死に逃げ惑う【仙王】をどうにか捕まえ、俺はこの勝負に勝った。
頬を紅潮させ、荒い息を吐く【仙王】。
体中汗でベッチョリ、着ている薄絹が体にフィットしていた。
酷く退廃的な生活のせいか、痩せ細った体がそのせいでバッチリ確認できてしまう。
……いい食材、何かあったかな?
「それじゃあ、罰ゲームをしましょうか」
「ツクルさん、いったい何をされるので? 場合によっては、それをさせるわけにはいかないこともありますので」
「子供が悪いことをしたとき、やることはだいたい一つですよ」
俺の視線は――【仙王】の体の一部をジッと見つめていた。
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