虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その08



「あ、本当だ。存在感がないみたいだし、だから気づけなかったんだー」

 納得納得、と一人で何やら満足している様子である。
 俺は、【仙王】と呼ばれるからにはさぞ長生きしている爺さんなんだろうな、と一人で考えていた。
 ウサ耳少女に訊いていれば、これぐらいのこと分かっていたかもしれないのに。

「えっと、初めましてかな? 儂が、この国の王である【仙王】だ」

「【仙王】様、急に一人称を変えないでください。いつも私と話すときと違いますよ」

「うぅ、いいじゃん別に。どうせ一度しか会わないんだし、凄かったよという思い出をあげようとしたんだよ――このアタシの思いでね!」

「また無理にダジャレにして……」

 声は幼い子供のものであった。
 その子がアタシ、というからには少年ではなく少女……いや、幼女(仮)なんだろう。
 うん、そんな幼女の家に上がり込んだ妻子持ちの男……あれ? 事案になりそうだ。

「リーも落ち着いて。ほら、お客さんも困ってるしさ」

「【仙王】様が言いますか、それを」

「…………さぁ、何をしに来たのだ?」

 布団に包まったまま、【仙王】は俺にそう尋ねる。
 ちなみにだが、俺とウサ耳少女は互いに自己紹介を済ませている。
 彼女の名前は『リーシー』と言うらしいので、『リー』とは略称のことだろう。

 さて、尋ねられたことに応えようか。

「私は、ツクルと申します。この度『闘仙』さんに呼ばれ、この街に訪れました」

「え? ローさんに? それじゃあ、アレは本当のことだったんだ」

「アレ、と申しますと?」

「……ううん、何でもない。ところで、一体どんな用があるって? アタシ自身に関係ないことなら、そろそろ修業の時間だから」

 修業、やはり幼女というのは見た目だけであり、実際には経験を積んだ□リババアというヤツなのか?
 と、思っていたら――。

「ただのお昼寝じゃないですか」

「違いますー。これは、仙丹を溜めこんでいるんですー」

「まあ、いいです。ツクルさん、詳細を教えてあげてください」

 昼寝だったんだ……羨ましい。
 幼女は後付けのような理由を伝えてはいるものの、ウサ耳少女改めリーシーさんの目がとても冷やかなので違うと思われる。

 俺は【仙王】に、『闘王』と会った際に話された内容をそのまま説明する。

 結界を破れるから、と誘われた。
 ダンジョンから転移門に繋がるから、と説明されて無理矢理ダンジョンに飛ばされた。
 どうにかダンジョンを攻略しようと穴を掘り、外側から山に登った。
 そこでリーシーさんに遭遇して――今に至ると。

 それを聞いていた【仙王】は、ゆっくりと目を閉じて――。


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