虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その06



 ウサ耳少女が仙道街へ向かうための門に案内してくれたが、そこでは再び審査をされることになった。
 先ほど以上に念入りな審査だったので、本当にこの街が仙人の卵を大切にしていることが分かる。
 ……そうだよな、子供ってのは何よりの至宝だ。
 何物にも代えることはできず、一つとして同じ物はない。
 それを守るためならば、どんなことでもできる――それが子供ってもんだろう。

「ハハッ……、なのに俺はどうして弱いんだろうな」

「ん? どうしたんですか?」

「いえ、ちょっと自嘲しただけです」

 審査を終え、今は仙道街を歩いている。
 薄らと霧が漂うその場所は、華やかな中央街と異なり静けさが感じ取れた。
 街の外で見たように、建物は質素な物が多く見られる。
 老後に住みたい、穏やかな場所である。
 だが、死亡レーダーは中央街以上に鳴り響いており、猛者がこの場所に潜んでいると示していた。

「気を付けてくださいね、時々、仙術に失敗した人が仙丹を爆発させますから」

「……え? それって、本当に大丈夫なんです(ボムッ!)……じゃ、なさそうですけど」

「ご安心してください。雲縄を破れるお方であれば、気にならない程度の仙丹ですので」

 ちなみにだが、仙丹が彼女や『闘仙』の力の秘密だと思われる。
 仙人のみ操れる、不思議なエネルギー。
 霧の中に大量に内包された濃密な力を、体内で練り込むことで仙人は生きている。
 霧の力を扱うだけでは、仙人として認められないし仙丹ではない。
 それを自身の中で精製することで、初めて仙丹となるのだ。

 そして、私は雲縄を破れません。
 現に失敗したエネルギーの残滓が飛んで来ましたが、浴びて死にました。
 しかし、説明するには『超越者』に関する情報を開示せねばならないので、そのままにしておこう。
 バレても良いが、積極的に言う必要はないからな。

「ところで、【仙王】様の場所に向かうのは分かったのですが……『闘仙』さんはどちらに居るのでしょうか?」

「えっと、この街から向かえるダンジョンにあるお仕置き部屋ですね。あそこではスキルも仙術も使えませんので」

「…………ダンジョンの、中ですか?」

「普通の人は驚きますよね、ですがそのダンジョンは永い時間を掛けて調べ尽くしてありますので、ダンジョンの所々にある安全地帯も見つけてあります。なので、私たちはダンジョンからこの街に転移するための門を置いているんです」

 いや、そこじゃないんだよ。
 ダンジョンの中に居る?
 つまり、始めから普通に行っていれば会えていたのか?

 ……いや待て、落ち着くんだ俺。
 初めてウサ耳少女に会ったとき、お説教中だと言っていたんだ。
 そうだ、そのときはまだ『闘仙』さんはこの街に居たんだ。
 だから死亡レーダにも『闘仙』さんの反応が無かった、そうに違いない!

「ち、ちなみに……お仕置き部屋に入ったのはいつ頃なんですか?」

 ウサ耳少女は、普通に答えてくれた。
 その言葉に、俺の心が救われたとだけ記しておこう。
 ……ちょっとだけ、はしゃぎすぎたけど。


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