虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山登り
足元に白い絨毯が敷き詰められ、それ以外のものは一切見ることができない。
ゆっくりと脚を手前に出すと、確かな感触が掴めた。
外はとても寒いのだろう、急激な冷えからか結界が、外気の冷たさを警告していた。
ヒューヒューと風の音が耳元で鳴り、この光景が本物であることを示していた。
「……いやいや、どうしてこうなるの」
ピッケルを叩き続けた結果、どうやら山の中腹辺りに辿り着いたようだ。
ゆっくりと地面があることを確かめて、外へ出て背後を見ると、まだまだ高い高い山の影が見て取れる。
結構掘ったと思ったのだが、さすがファンタジー……いや、エベレストとかだったらこれぐらいは普通か。
「しかし、アイプスルにあるあの山より高いのかもしれないな。標高どれぐらいだ? ドローンで調べておいてくれ」
《では、すぐに》
俺がドローンをポケットから取り出すと、『SEBAS』が即座に操作して上空に飛ばしていく。
天空都市みたいなやつがあれば、観光に楽しめそうだが……酸素、だいぶ高いけど大丈夫なんだろうか。
俺はあまり山に登った経験はないが、現実では高山病と言う言葉がある。
眩暈や頭痛に苛まれたり、吐き気がするらしい。
なので以前アイプスルの山に登る前も、予め酸素補給のアイテムも作ってあったが……意外と問題なかったんだよな。
あの星だから要らなかったのか、それともゲームだから要らなかったのか……よく分からないが、その内調べておこうか。
そこからは、山登りが主となった。
整備されていないので少々登り辛いが、歩いていける傾斜の道を見つけたのでそこから移動を始めた。
気分的に登山道具を装備し、時間を掛けて登り始めていく。
結界のお蔭で寒さを感じず、酸素も安定した一定量の確保ができる。
足元の石に躓くこともあったが、これも結界によって痛みはない。
また、いくらダンジョンの外に出ようと、魔物の脅威から逃れられることはなかった。
空を飛ぶ魔物や高山帯に住む魔物、鳥や山羊や蜥蜴などが俺に襲いかかってきた。
倒してもよかったが、勝つために支払う代償が計りしれないので、これも結界でガードしてからモルメスでチクッと刺して逃がす。
外皮や防御力を全て無視して魂を傷付けるので、慣れない痛みに魔物は逃げ出すのだ。
二本の杖を地面に突き刺し、一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
途中で結界のようなものへ干渉する感覚に襲われたが、それがゴールに近い証だと思って必死に歩を進めた。
そしてしばらくして、その考えが正しかったことを知る。
「――ここが、『闘仙』の住む地」
山の上から見えたのは、山の窪みにひっそりと存在する不思議な街であった。
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