虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

擬似転移装置



「――空間歪曲、シールド全開!」

 ヘノプスの衝撃波を、すぐさま射線内・・・に居た俺は防ごうとする。
 空間を捻じ曲げて自分のみを攻撃対象とさせ、それを普段から展開する結界の本気モードで封殺する。

『なぜここにおる!』

「さて、どうしてでしょうね」

 理由は至って単純なものだが、戦闘中に敵へ教える程愚かではないと思いたい。
 古今東西あらゆる創作物において、自分で秘密を暴露してやられる敵キャラの多さを考えると……うん、絶対に言ったらアカンな。

 ミシミシと悲鳴を上げる結界。
 溜め込んだ結界用の魔力が高速で削られていき、何層にも重ねた結界が一枚、また一枚と破壊されていった。

《旦那様、このままでは……》

「分かってる! だが、まだ避難が完了していない!」

 這う這うの体で、射線外にゆっくりと動いている古代人たち。
 他の奴らが引っ張って外に連れ出そうとしているので、そろそろ避難が完了すると思われる。

「しっかし、これ長いな。30秒ぐらい続いているんじゃないか?」

《オペラ歌手でもそれぐらいは容易いとの情報もありましたので、体の構造的にもっとこの守護獣は声を出せるのでしょう》

「そうかい。それならずっと、これに耐える以外の選択肢はないのか」

 裂帛の咆哮は続き、結界を維持する魔力もそろそろ底を尽くところだ。
 後ろの射線上にはもう誰もいないことを確認し、少しずつ歪曲させていた衝撃波を上にずらしていく。

「どっせいやー!」

『むっ。やるな、休人よ』

「それじゃあ、後半戦を始めようか」

 ……魔力、もう限界です。
 コスパを抑えた通常モードならともかく、戦闘用の結界をフルに使えば一気に魔力を尽きるんだよ。
 今はその状態、魔石として保存しておいた魔力の貯蓄が無くなり、通常モードでしか結界の展開ができなくなってしまった。

 俺とヘノプスの会話に、再び古代人たちが戦闘を行ってくれた。
 その隙に再び後方に下がり、使用した魔道具の調整などを行っていく。

《結界は問題なく作動中ですが、これ以上の擬似転移装置を使用することは難しいかと》

「やっぱりか……転位よりも難易度が高いみたいだな」

 擬似転移装置、理論上はどこへでも移動可能な転移技術を、視界内ならばという条件の下で再現した装置である。
 先程の移動は、この装置を使用してのものであった。

《旦那様の計画通り、順調ですね》

「まずは、魔石を手に入れることだな。アイツらが脱出する術がなければ、俺の計画も断念せざる負えない」

 そう、既に布石は用意した。
 あとはそれが実るのを、見守るだけだ。


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