虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
出陣
「タビビト、出発の時間だ」
「あ、はい。今行きます」
作業を行っていると、部屋の外から精鋭部隊の一人に呼びかけられる。
応えてから作っていたアイテムを一纏めにし、ポケットの中に突っ込んでいく。
そうすると、袋という一種類で纏められるので大量のアイテムを一つのポケットに入れられるのだ。
ついに、この日がやって来た。
既に作戦は実行しており、あとは守護獣に挑むだけの段階となっている。
「――よしっ! お待たせしました」
「タビビト、本当にいいのか」
「……はい、覚悟は決まっています」
残念だが、俺と彼らの覚悟には決して同じではない。
彼らは一世一代の戦いに挑むのだが、俺の場合は少し強い相手と戦って死ぬ……ぐらいの思いしかないのだから。
そういう点からも、プレイヤーの異常性がよく分かるものだ……俺はその中でも、特に異常だけど。
◆ □ ◆ □ ◆
砦の外に出ると、砦に住む古代人全員が待ち受けていた。
精鋭部隊は砦から離れた場所、残りの者たちは砦の入り口から精鋭部隊が居る場所までに、並ぶようにして待機している。
「タビビトの出陣だ!」
俺の隣で呼び出しに来た男が叫ぶ。
すると――
「おおっ、タビビトだ!」「料理美味かったぞ!」「次もよろしくな!」「僕たちも頑張るから、タビビトも頑張って!」
様々な声が俺に届く。
……彼らは知らない、熱い声は俺を殺すということを。
レベルが上がってしまい、このままでは待機組も死んでしまうかも知れないな。
ま、対策は用意してあるから大丈夫だろ。
声援を浴びて歩いていき、まず代表に遅れたことを詫びる。
彼らの予定を少し狂わせたのは俺だ。
謝ることは先決である。
「遅れてすみません。ギリギリまで道具を用意していたもので」
「構わないさ。万全の準備をしてこそ、勝利は見えてくる。ただの蛮勇では、どんな功績も愚行でしかない。お前のそれは、我らの蛮勇を快挙にする」
「皆さんが、守護獣に挑むために準備をしていたのは分かっていますよ。私にはそのお手伝いしかできません。皆さんがこれから行うことは、もともと蛮勇ではなく豪勇です」
「豪勇、か。良い言葉だな」
代表はいつもながらのイケメンフェイスで不敵に笑うと、大声を上げる。
「――皆の者、よく聞けっ!」
空気を震わせる代表のその言葉に、盛り上がっていた古代人たちは、一瞬で静けさを取り戻す。
静かになったことを確認すると、代表は騙り出した。
「タビビトの助力もあり、我らはこのときを迎えることになった。守護獣と『死の灰』、この二つを乗り越えなければ我らに生存する未来はありえない。……だが、恐れることはない。我らには守るべき者がおり、守り抜く力が備わっている。
さぁ、進み挑もうではないか!
相手は強敵と自然の脅威、だが我らははるか昔からこれらと戦い続けてきた。先祖はこれに抗い続け、さまざまなものを――この砦へ残したのだ。今度の我らはどちらにも負けることはない。新たな友と共に……勝利を全員で見ようではないか!」
『ウォオオオオオオオオ!!』
再び大歓声を上げる古代人たち。
俺はただそれを……挑む前だというのに、死に続けてジッと眺めていく。
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