虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
孤児院 前篇
それから、いろいろとあったとだけ纏めておこうか。
少年が戻った途端、教会内にいた子供たちが一斉に少年に飛び掛かって来て気絶。
目を覚ました少年の前に現れたシスターが抱き着き、呼吸不可状態になって気絶。
落ちてしまった焼き串を争い、少年の制止も聞かずに暴動が起きて俺死亡。
最後のはどうでもよかったが、この教会で少年がかなりの地位を有しているのが良く分かる一コマであった。
「おっちゃん、追加を頼む」
「はいはい。……にしても食うよな」
「アイツら、お腹いっぱい食べたことなんて一度もないからさ。食べられる内に食べるってこともしたことなくて、手に入った食べ物は必ずここで分け合ってて、絶対に満腹にならないんだ。
おっちゃんには感謝してるよ、アイツらのあんな顔……俺も初めてみたからさ」
「金で解決できるなら、使うに越したことはないだろ? どうせ俺はお前の獲物にされるような雑魚だ、こうやって散財するぐらいどうってことないさ」
「うぐっ。わ、悪かったって」
少年を軽くイジメつつ、目の前の光景を見て頷く。
俺も家庭を持つ父親だからな、子供が苦しむ姿を見て何も思わないわけじゃない。
できるなら、手を差し伸べてやろうと思ったんだ。
ちょっと汚い金かもしれないが、俺みたいな奴が使うよりも子供たちのためになった方が心も洗われるだろう。
さて、少年との心温まるハートフルな話はここで終了だ。
ここからは、大人のちょっと汚い部分が多めに出てくるかもな。
「――では、貴方自身にこの場所をどうこうしよう、という意志はないので?」
「そのつもりです。偶然縁を持った少年に、手を貸そうとあぶく銭を振り撒いただけですから。恩を売って奴隷売買の餌にしよう、などと考えているわけでは」
「……ふむ。そうですか」
懺悔室のような場所で、俺ともう一人の人物――神父さんは話し合っている。
少年たちが焼き串を食べている最中に突如現れ、俺との話し合いを求めてきたのだ。
どうやら自分たちが保護していた子供が何かの事件に巻き込まれていないかを確かめているようである。
見知らぬおっさんが食べ物を提供し、ばら撒いているんだから当然だ。
「いつまでも疑っていては悪いですね。貴方からは、嘘を吐いているような反応は感知できませんでした」
「……はぁ。そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいです」
「驚きました。心からの謙遜、これは中々意識できないものですから。貴方は純粋に、あの子たちのためを思ってくれたのですか」
何か特別なスキルでもあるのだろうか。
勝手に話を進めて勝手に納得した神父さんは、今までに向けていた作り笑いを止め、彼自身の笑みを浮かべた。
……俺、何かしました?
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