虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
貧困層
少年が進む場所は、街の管理が届いていない暗い所であった。
ただ、明るさが暗いというわけではなく、雰囲気というか……その場所で生活を余儀なくされている者たちの性根が暗いというのだろうか。
軽くディスっているものの、澱んだ空気が俺にそう感じさせていたのだ。
「……『SEBAS』、確かこの街の観測は済ませてあったよな」
《はい、時間もありましたのでかなり詳細な物がございます》
「そうか。貧困層はこの街において何割を占めているんだ? あと、性別と年齢の方の詳細もあると助かる」
《総人口2万の内、貧困層は約1割。つまり2000人程です。性別は男性4の女性6。年齢は子供と成人と老人で分けて4対5対1となっております》
少年に聞こえないように呟き、『SEBAS』からスラムに関する情報を集めていく。
必要ない、と言えば必要ないのだが――むしろ、必要ないことを望んでいる――本当にそれが必要な際にないと困るので、予め予習しているのだ。
いくつかの情報を確認するが、どうやら問題だらけのようだな。
《――私が集めた情報は以上となります。引き続き情報を詮索しますか?》
「ああ、できるならあの方法以外での対処法の提案を頼みたい」
「……っちゃん?」
《旦那様、少年が呼びかけています》
『SEBAS』に言われると、一旦会話を中断して少年に注目する。
「お? どうしたんだ?」
「……いや、おっちゃんがそろそろ孤児院に着くって言ったのに反応しなかったんだろ」
ジト目でそう言われた。
ルート案内を任せたまんま、途中から別のことに意識を向けてたからな。
『SEBAS』がいなかったら、気付くこともなかっただろうし……反省反省。
「そういえば訊き忘れたが、孤児院にはどれくらい子供がいるんだ?」
「俺ぐらいのヤツが5人と、あとは大体チビばっかりだ。人数は……まあ、行ってみればおっちゃんも分かる」
「十人くらいか?」
「いや、もっといる――ほら、見えたぞ」
視界の先には、少し古そうな教会が確認できる。
少し暗いスラム街でも、教会は少し明るい雰囲気を醸し出していた。
「ここが、お前たちの家なのか」
「そうさ。俺たちはここに拾われて、ずっとここで生きてきた。今更見捨てるわけないんだ。だってここにいるみんな……俺たちの家族なんだからさ」
「……そっか。なら、全員にお腹いっぱい食い物をあげないとな」
「そう……だな。アイツらきっと、空腹で倒れちまってるかもしれねぇ。おっちゃん、食べ物はちゃんと出してくれるんだよな」
「はいはい。ここまで来て出さないって、それなら来る必要ないだろ――ほい、匂いで釣る用の一本だ。持っとけ」
焼き串を少年に一本渡して、俺たちは教会の中に進んでいった。
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