虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
釣り
ちなみにだが、釣竿の素材は竹だ。
エルフの秘匿技術によって何重にも強化を行い、ドワーフの刻印術によって柔軟さと頑丈さを兼ね備えている。
ルアーは……確か、ケットシーが持っていた疑似餌を参考にしたんだっけ?
アイツら、川でちょくちょく釣りをしているので、そのときに見せてもらった。
釣りにもスキルが存在する。
しかし、(スキル)が無くとも釣りはできる。
たまに竿を躍らせるように揺らし、獲物が喰いつく瞬間を待つ。
気長に待つことが最も大切だ。
スキルが有れば入れ食い状態、というわけでもないらしい。
ただ釣る時に補正が入るのが(スキル)で、その段階に持ち込むのは釣り人たち自身。
諦めない不屈の心こそが、釣りには大事なのだ。
「……暇だなー」
少し広めに結界を展開してあるので、近くに現れた魔物も、俺の5m前辺りで何かにぶつかって逃げていく。
俺の行動を邪魔するものは存在せず、上空で下々の者たちを照らしつける太陽がゆっくりと動いていった。
どれだけの時間が経過しただろうか。
釣竿は一度も受動的に揺れず、撓ったことなど一度もなかった。
「おかしいな? 現実ならちゃんと釣ったことあるんだけどなー」
とあるおっさんのように、現実での才能がこちらで開花したわけでもない。
海でも川でも湖でも、しっかりと釣った経験がある。
しかし、仮想空間における現実はそれとは異なり、空間拡張という高度な技術を施したバケツの中身は、多めに汲んだ水しか入っていなかった。
魚が居ることは分かっている。
今も俺をからかうように、水面で飛沫を上げて魚が飛んだからだ。
……電気流した方が早いんじゃないか?
「『SEBAS』、これには何か理由があると思うか?」
困ったときは相談しよう。
頼れる『SEBAS』に訊くと――。
《恐らく、魔道具としての質が高過ぎることが問題なのでしょう。漏れ出した魔力の多さに生き物が怯え、水中は餌の辺りが空白の地帯になっていると思われます》
「あー、凄過ぎるのも駄目なのかー」
折角なので水中にカメラを飛ばして探索してみると……うん、本当に餌の周りに一匹も獲物が居なかった。
《旦那様の場合、筋力などの観点から強度な竿が必要となりますので……竿が有する魔力量に耐えうる生物が居る場所で無ければ、恐らく釣りが成立することは無いでしょう》
「……ここの主は?」
主、それは湖に住む最強の存在。
有象無象とは一線を駕した実力を誇り、釣り人の邪魔をするはずなのだが……。
《使用した術式の数からして……シュパリュやケルベロス級の魔物で無ければ、釣れないかと》
この日、俺は釣り竿を奥深くに封印した。
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