虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
西の湖
それでも、俺の取れる選択肢は少ない。
最も安全に相手を気絶させる方法、となるとこれしか無いのだ。
猫相手に使った毒などは使いたくないし、音波兵器も懲りたから使わないことにした。
そうなると結局、これしかないんだよな。
電気が効かないヤツが相手になったら別の対策を施すが、現状は必要ない。
「回収、回収っと」
新たな素材、それは生産職の心を擽る魅惑の言葉だ。
未知の素材には、既知の知識が通用しないことがある。
それはつまり、未知を既知へと転換させる可能性を秘めた宝を手に入れられるということになるのだ。
「ゼラチンスライムなんて、特にその可能性があるよな」
ドロップアイテムの一つとして、ゼラチンが存在した。
通常のゼラチンの性質はもちろん、魔力を籠めると別の性質が生まれるらしい。
「……(鑑定)のLvが低過ぎてよく分からないのが問題だな。『SEBAS』」
《はい、解析を行います》
打てば響くとはこのことだ。
俺の意図を汲み取った『SEBAS』は、即座に解析を行ってくれるようだ。
ゼリー、接着剤、他にも色々と使い方があるんだしな。
「――とりあえずサンプルの分が確保できたら、普通のゼラチンとしての使い勝手を調べてみるか」
お世話になっているト□ーチの、懐かしい味を復活させるのが一番楽しみだ。
◆ □ ◆ □ ◆
W2
ガード戦法(?)でただ真っ直ぐに進んでいると、すぐにこの場所に到達した。
このエリアから現れる、クルクックの上位種であるハトポッポなども即座に倒し、前へ前へと歩くのが現状だ。
E2だと草原の先は森なのだが、W2の場合は代わりに湖が存在した。
大きさは運動場によくある200mトラックの円ぐらいだと思う。
綺麗な色で陽光を反射させてゆらゆらと輝いた水面に、極稀に魚が跳ねるのが見えた。
「こういう所に主は……うん、ちゃんと居るみたいだ」
深さは5m程だろうか。
底の方に居る魔物に反応したレーダーが、俺にそう告げている。
そこまで深いと恐怖だな。
中に住んでる魔物に引き摺られて、そのまま溺死……なんてこともあるかも知れない。
「釣竿は用意してあるし、餌は……とりあえずルアーで誤魔化すか」
暇とは恐ろしいもので、既に釣竿もルアーも合間を縫って作成済みであった。
ただの釣りグッズでは無く、全てが魔道具としての機能を兼ね揃えている。
釣竿とルアー以外にも幾つかグッズを持っているので、釣りで困ることは無い。
ルアーを取り付けた釣竿を振るい、湖の中央辺りに投げ込む。
……何が釣れるんだろうか。
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