虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

西の草原



「……あ、結局穴が開いた理由が分かってないじゃん」

 このことに気付いたのは、一度ログアウトしてからのことである。
 とっくの昔に休みも終わっているので、普通に出社してきた。
 残業もなく定時で帰宅し、再ログインしているのが現状であった。

「『SEBAS』、何か理由分かったか?」

《……いくつか仮説がございますが、確証が持てませんので》

「そっか、ならまた今度で」

『SEBAS』ですら、解明を終わられないないような難問……俺には解けないな。
 ちなみに俺の回答は――冥界に封印されたナニカが原因なのでは、と思っているぞ。
 困ったら悪に責任を押し付ける……今までの人類は、こうして自分たちの正義を正当化していたからな。

「でも、それなら何をしようか……」

 また冥界に行くには早いし、かと言って街に行っても納品はまだだし。

 再び攻略を進めるのも良さそうだが……まだ巨大な怪鳥が、俺を捜索していると困るからなー。

「……そうだ、散歩しよう」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 W1

 別に、東側にだけこだわる必要など無かったのだ。
 方位は東以外にも存在するし、決して行ってはいけない禁忌の地というわけでもない。


 E1と似た草原を歩きながら、俺は空を仰ぎ見る。
 ……巨大な鳥なんて、いないよな。
 実は太陽が二つあって、片方が怪鳥でしたなんてオチは要らないんだ。

「ふぅ、多分大丈夫だろう。それに、今なら結界で安心は確保されている。……さすがに『超越者』が相手だと心配だが、普通の魔物ぐらいならどうってこともないか」

 空を仰ぐ=調子にのった餌だと思われているのか、近くで俺を観察していた魔物がいっせいに俺へ突撃してくる。

 現れたのは――ゼラチンスライム、ドリルラビット、グループドッグ。
 どの魔物もE1に現れる魔物の上位種であり、このエリアで現れる普通の魔物だ。

「今のプレイヤーは余裕で倒せるらしいんだよなー。どれだけ強くなってるんだか」


 そもそも、俺は冒険できるようになったのがだいぶ後なんだよな。
 プレイヤーたちは俺が星を整えたり、神様の試練をこなしている間も、俺が想像もできない激しい冒険を行っていた。
 イベントでレベリングでもしたのか、今でも新しい場所が解放されているらしい。
 ……ショウたちの場合、クエストに絡まれることが多かったらしいからな。
 他の場所に行く余裕が無かったのだろう。

 一般プレイヤーが全方位の第2エリアを突破し、既に3や4で冒険をしているそうだ。

 ――俺も、正当な方法・・・・・で進んでみたいな。

「……ハァ、そろそろ行かないとな。今回はこれを使うか」

 絶縁結界を起動すると、そこへかなり弱めの電圧を浴びせていく。
 魔物はそれによって感電死……じゃなくて感電し、気絶していった。

「正当な方法……少なくとも、魔法でも無いのに電気を使って倒すのは違う気がするんだよなー」


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品