虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
扉の先
冥界らしいさ、それは一体どこにあるのだろうか。
とある小説では、そこは何も無い草原とも選ばれし者だけが行ける楽園とも、宝石で装飾された宮殿とも記されていた。
他にも日本では灼熱やら針山やら極寒やらいろいろとあったが……とにかく、極楽か苦痛かの二択で分かれていた筈だ。
だが、目の前に広がる光景はどうだ。
しっかりと足の人たちが、歴史物のドラマなどを視たときに見れるような日常を、当たり前のように過ごしている。
全員がニコニコしているわけでも、全員が苦しんでいるわけでもない。
走り出した子供が転んで泣いていたり、食品を朗らかな笑顔で売り捌いていたり……。
「……これ、普通の町だよな」
《このタイプの冥界は……マグ・メルやヴァルハラ、それにエリュシオンと言った理想郷とは異なります。正か負の一方に偏っている様子もありませんので、この世界独自の冥界かと思われかと》
『SEBAS』の見解を纏めれば、地球の神話には存在しない、新たな冥界がこの場所だということだ。
「運営も頑張ってるんだなー。オリジナルの世界観って結構大変なのに、冥界の方までわざわざ作ってるなんて……」
○○ワールドとかだけでもいろいろと細かい設定があるらしいのに、こういう所まで工夫を凝らしているのか。
まあ、『騎士王』の所も引き継ぎ制になっていたりしたし、それぞれ微妙に異なっている部分はあったんだけどな。
さて、ここまでは開かれた門の先の話をしていたが、そろそろ俺の立場に合った話をしようか。
突然巨大な門が開いたら、当然住民や兵士たちも気付くだろう。
俺の元には数人の衛兵がやって来て、すぐさま衛兵所に連れていかれた。
「――つまり、君は正道で扉を開けた……そう言いたいんだね?」
「はい、それが紛れもない事実ですから」
「ふむ……。少し、待ってもらえるかな?」
俺に事情聴取をしていた衛兵のリーダー的な人は、一通り俺の主張を聞き入れると、部下に命じて水晶のように透明な石を持って来させた。
「これに手を当ててくれるかな?」
「えっと……これは何ですか?」
「鑑定石、その中でも特定の称号が無いかを確かめるものだよ。扉を開ける条件を満たせていれば光る、その色によってあることが分かるんだけど……それは光ってから話すことにしよう」
「分かりました」
言われた通りに石に手を当てると――白色にピカッと光った。
……同時に、『SEBAS』が俺を通じて解析を掛けている。
これで、魔道具では無いこの石の詳細が分かるかもな。
「……ふむ、第一権限の保持者か。確かにあるようだね。久しぶりのお客様だし、何よりあのお方からの指令もある……すぐにお連れしようか……」
何かを考えるような表情をする衛兵さん。
あの、一旦休ませてもらえませんかね?
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